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転機と「行き方」(民報サロン 2019年3月19日より転載)

 「HOW TO GO」。直訳すると、「行き方」。僕の大好きなバンド、くるりが十五年以上前に発表した曲だ。
 くるりは、大学の音楽サークルで出会い、結成されたスリーピースバンド。その時々で多様な要素を取り入れ、目まぐるしく音楽性を変えながらも、今もなお活躍している。
 そんなくるりからオリジナルメンバーであるドラマーが脱退し、バンドとしての行く末を否応なく考えさせられたであろう時期に発表されたのが、「HOW TO GO」だ。
 重厚なギターリフで幕を開けるこの曲は、とてもゆっくりとしたテンポで、まるで一歩一歩確かめるかのように進む。この曲に何度も出てくるイントロのフレーズは、二小節ずつのまとまりで捉えるとタメと解放の対置になっていて、ギター・ベース・ドラムがすべて同じ動きをするキメの多いフレーズの後に、シンバルがクッて滑り込んでくる瞬間にカタルシスがある。ディストーションのかかったギターのざらざらしたサウンドも心地いい。
 「昨日の今日からは一味二味違うんだぜ/自信も根拠もしゃれこうべみたいな顔のまま」
 歌いだしの歌詞からは、何かが失われ、変わってしまった様子がうかがえる。昨日まで持っていたはずの自信やその根拠も、髑髏のように何も語らなくなってしまった。
 「意識は遠のく/まるで昨日の夢のよう」「さっきまで気にしてたHow to play the guitar/灰になる」
 続くサビのフレーズでも、「昨日」や「さっき」といった過去を示すフレーズと、それとは変わってしまった今の心情が歌われる。その後二番を経て逆回転のギターソロが入り、イントロのフレーズを繰り返した後、最後のサビで歌われる歌詞が僕は大好きだ。
 「いつかは想像を超える日が待っているのだろう/いつかは想像を超える日が待っているのだろう」
 喪失、それにより引き起こされる変化。それを引き受け、それでもこの先に何かが待っているはずだと歌う。この歌詞を二度繰り返す部分がこの曲のハイライトであり、「HOW TO GO」というタイトルに呼応するテーマである。
 僕はこの曲を、自分の信じる「行き方」を声高らかに歌った曲だとは思わない。迷いや葛藤に戸惑い、切なさにのたうち、そんな自分を恥じる。それでも、それだからこそ、進む道の先に「想像を超える」日がいつか来ると信じ、いまを続ける。そして最後に歌われる結びの歌詞はこうだ。
 「毎日は過ぎてく/でも僕は君の味方だよ」「今でも小さな言葉や吐息が聴こえるよ」
 ここで語りかけられているのは誰だろうか。ある人は曲のリスナーと思うかもしれないし、またある人は離れていったドラマーと思うかもしれない。僕は、失われていったすべてのものへの言葉だと解釈している。
 いまを生きる僕たちに、転機は望むと望まざるとに関わらず、降りかかってくる。その時「いつか」への、願いよりも確信に近い想いを持って前に進みたい。

(文・写真 / イノウエ)

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