2019 年間ベストアルバム10

2019、年間ベスト10枚。

10 Spangle call Lilli line『Dreams Never End』

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2018年に結成20周年を迎えたバンドの3年ぶりの新作。音楽とは別のなりわいを持ちつつも、20年の間に作品を少なからず発表し、認知度や評価を獲得してきた。響きを重視したうたや言葉選びだけでなく、何らかの感情や気分に振り切れない曲が多いことも個人的には特徴だと思っている。聴くシチュエーションを選ばない音楽というか。だから、前作『ghost is dead』の一曲目を聴いた時は、ここまでマイナー調がはっきり打ち出されたダークな曲をSCLLが発表することに驚いた(それ以外の曲は、大きくは今までと変わらない作風だったが)。そして今作は、「red」という、光に向かって開いていくような曲から始まる(前作一曲目が「azure」つまり紺色だったのに対し、今回は赤色。そういう部分でも対照的な姉妹作と言えるのかもしれない)。「so as not to」のつんのめるようなリズムや、「sai」ではっきり不協和音を奏でるギターなど、ところどころ新機軸の要素もあるが、基本的には安定してSCLLの音楽として聴ける。20年といわず、30年40年と長く活動し続けて欲しいバンド。

9 OGRE YOU ASSHOLE『新しい人』

OGRE YOU ASSHOLE『新しい人』

まだ全貌を把握していない......何回聴いてもそんな感想を抱いてしまう。長野に拠点を持ち独特の音楽性とスタンスでキャリアを積み重ねているバンドの、3年ぶりの新作。先にシングルとして発表された「動物的 / 人間的」が、彼らのキャリアでも屈指の名曲である「夜の船」路線の、やさしいメロディーとエレピが印象的なメロウな曲だったので、いやがうえにもアルバムへの期待が高まっていた。そして届いた新作は、確かに1曲目の「新しい人」などメロウで心地いい曲もあるものの、あやしげなフレーズを奏でるシンセと歌メロの下でひたすら繰り返されるチープなシンセベースが踊れなくもない「さわれないのに」や、スムースと呼ぶには抑制的すぎるスカスカの音像とかなりスローなテンポが実験的な「ありがとう」など、一筋縄ではいかない曲も多くある。印象的なフレーズを繰り返すベースと抑制したドラム、そしてフランジャーをきかせたギターに歌という削ぎ落した演奏で、そのまま終わるかと思いきや曲の後半で転調(?)をして、再度もとの調に戻りフェードアウトしていく「過去と未来だけ」は、ひときわ奇妙な印象を残す。かと思うと、スムースでキャッチーな「わかってないことがない」で、はっと引き戻されたり。なんともつかみきれないアルバムだ。

8 Long Beard『Means To Me』

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アメリカはニュージャージーのシンガーソングライターLeslie Bearのソロプロジェクト。アコースティックギター弾き語りを基調に、切なげな曲を透き通る声で歌う。ジャンル的にはインディーポップとかドリームポップに当てはまり、去年ならSnail Mailの『Lush』と同じ枠。どこか懐かしい感じの感傷が漂うのは、ギターにかけられたコーラスによる揺らぎのせいだろうか。秋冬の澄んだ空気を胸いっぱいに吸いこみながら、「ひとりであること」に気づくと同時に少しのやすらぎを感じる瞬間に聴いていたい。

7 王舟『Big Fish』

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Bioman(neco眠る)との共作『Villa Tereze』を除くと、3年ぶりの新作。前作が、充実しつつもどこか力が抜けた風通しのいい宅録作品だったのに対し、今作は多くのアーティストが参加し、音色や演奏の緻密さが目立つ。ソングライターは王舟ひとりだが、色んな楽器が入っているアレンジや作風は、どこか国籍を超越した音世界を生み出す。Twitterで見た話によると、曲ができなくて悩んでいたところ、シャムキャッツの夏目さんに「100点目指すなや、とりま65点くらいのを量産しろや」といわれ、一緒にスタジオでアドバイスを受けながら制作したらしい。とはいっても「アドバイザー」みたいな肩肘張った役割ではなく、ただ友だちとしてデモを聴きながら話して、という感じだそう。タイトルの元ネタになったティム・バートン監督の『ビッグ・フィッシュ』も今度観てみよう。

6 DYGL『Songs of Innocence & Experience』

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再生ボタンを押すと軽やかで瑞々しいガレージ・ロックが耳に飛び込み、大学時代に聴いていたThe View『Hats Off to the Buskers』あたりを思い起こさせた。歯切れのいいギターサウンドがカッコいいロックバンド、イギリスに移住し海外でのレコーディングや活動を主軸におく若き日本人、などなどがこのバンドを形容するときによく使われる言葉だが、それ以外で今回の作品を聴いて感じたのは、メロウな曲での抑制したアレンジと歌の素晴らしさだった。「Only You(An Empty Room)」がまさしくそれなのだが、この一曲があることでアルバムの奥行きがグッと増している。ジャジーな曲調の中、寂しげな風景描写と少し憂鬱な詞をのせて、深めのエコーがかかった歌が響く。サックスソロを経てフェードアウトした余韻を、アルバムでもっとも痛快な「Bad Kicks」のギターリフが切り裂く構成がニクい。

5 Whitney『Forever Turned Around』

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前作『Light Upon the Lake』で一気にインディーロック界隈に名を轟かせたシカゴ出身のバンド、Whitney。ミドルテンポで奏でられる滋味深い曲は、独特な響き方をする歌声(やさしげというのとも少し違うハイトーンボイス)と靄がかかったような楽器の音、そして効果的に配置されたホーン隊の音で彩られ、他にはない音世界を確立している。今作でも独自のぬくもりある音の世界がほとんど変わっていなくて安心した。秋から冬にかけて、暖炉のそばでゆっくり猫でもなでながら聴きたい一枚(猫も飼っていないし暖炉もないけれど笑)。

4 Bibio『Ribbons』

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安定のBibioとか言いたくなるくらい、いつも通り素晴らしいアルバム。前作『A Mineral Love』がソフト・ファンク寄りの傑作だったのに対し、今回はフォークトロニカを基調にし、より牧歌的な雰囲気が漂う。とはいえ、何かのジャンルに振り切ることはなく、いつも通りのフォーク~エレクトロニカ~ファンクあたりを折衷したBibio節と形容せざるをえない独特な世界観を作り出している。胸いっぱいに広がる緑のにおい、颯爽とふく風、清らかなせせらぎ。自然の慈しみをそのまま音楽にしたような世界は、幻想的で夢の中にいるよう。桃源郷や別世界への逃避的な要素を強く感じると思っていたが、今作に関するインタビューではっきりそれについて語っているものを見つけた(http://turntokyo.com/features/interviews-bibio/)。

3 Toro y Moi『Outer Peace』

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今作はとにかく踊れるエレクトロファンク。2011年ごろに盛り上がっていたChill Wave界隈は逃避的でドリーミーな音楽性の作品が多かった中で、そこが出自でありつつもToro y Moiはソウルとかファンクの要素が感じられて、一番好き。12月15日に仙台Club Shaftで行われたFRIENDSHIP. × FREE THROWというDJ・ライブイベントでもこのアルバム2曲目の「Ordinary Pleasure」がかかっていて、「だよね~!わかるー」となった。笑 いい音響で浴びると気持ちいいこと間違いなし。

ミツメ『Ghosts』

ミツメ

とにもかくにも「エスパー」が大好きだ。キャッチーな歌メロに、親しみを感じつつどこまでもわかり合えない二人を「テレパシーが使えない=エスパーではない」ただの人間として描く歌詞がのる。ミュートをきかせたバッキングギターも含め、全体的に抑制的で歌メロを最大限聞かせようとするアレンジが良い。淡々としながらも、クライマックスのギターソロに向けて徐々に盛り上がる演奏の熱。歌の切なさと相まって、レトロな質感がノスタルジックなMVも繰り返し再生した。実はアルバム単位でちゃんと聴くのは今作が初めてだったので、こんなにポップなメロディを奏でるバンドとは知らなかった。

1 AAAMYYY『BODY』

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Tempalayに2018年正式加入したAAAMYYYのソロ1作目。といっても、Tempalay加入前から色々なユニットなどで活動しており、大学時代からDTMなどで作曲していたらしいので、個人の作家としての歴は長い。去年発表のミニアルバムがApple Vinegar Award(アジカンのGotchが旗振り役となりはじめた、新人ミュージシャンに対し送られる賞。選考会の様子などもオープンにされていて、すごくいい取り組みだなぁと思っています。)にノミネートされていて気になっていたところ、今年になってこのアルバムがリリースされたので聴いてみたという経緯。最初に聞いた時に、メロディーがキャッチ―なことにまず驚いた。ソングライターとしての評価を聞いたことがなかったこともあり、これはいい意味で裏切られたな、と。キャッチ―で親しみやすいメロデイーにのせて歌われる歌詞はどこか痛みや呪いがあり、そこも自分の好きなフォーマットだった。アルバムの歌いだしの歌詞が「事実は今日も葬られた」。本人のポリシーを歌ったのかと思われる5曲目「ポリシー」の「”あなたの為に思っている” / のが正義じゃないのよ」なんて、まるでthe pillows「Advice」みたいだ(あちらはより露悪的に、”アドバイス”のセリフを歌詞に盛り込んでいるわけだが...。英詞に忍び込ませた毒はさわおさんお得意のパターンですよね)。「愛のため」では、切ないメロディーにのせて、別の場所へ向かった「彼」と、まだ別の場所へはいけない「僕」について歌われる。ただの別離というよりは、死別(「彼」の自殺)を想起してしまうのは、「ひと思いに飛べよ」「水たまりの向こう側へ / 行きたくなるもんさ」あたりの歌詞のせいか。ダークで憂鬱な曲ではあるものの、どこか聞き終わった後に希望が感じられるのは、「残る」ことを選んだ「僕」の静かな覚悟のようなものが感じられるからかもしれない。あと、「All By Myself (Feat. JIL)」のR&B調の歌い方も色っぽくて素晴らしい。多才な人なんだなぁ......。


さいごに(まとめ)

今年は音楽をじっくり聴く時間も余裕も少なかったというのが正直なところ。土日も出かけていることが多く、気忙しい一年でした。
そんな中聴いた新譜は、完全に新しいアーティストというよりは、前から知っていたアーティストの新譜が圧倒的に多いですね。去年からSpotifyを始めたので新しいアーティストには出会いやすかったし、そこから掘ったりもしていたのですが、そういうのはだいたい旧譜なので今回は載せず。2019年新たに出会った旧譜特集もちゃんと書こうかな。そういえば映画は今まで以上に観た年だったし、それもごちゃ混ぜにして。
さてさて、ここまで読んでいただいてありがとうございました。来年も素敵な作品と出会えますように。

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