午後3時おばちゃんに敬意を表して

3時になった。これは僕にとって、一番大事な時間だ。
これを逃すと、今後の人生に色々と影響してくる。
正確には15時である。この時間が非常に重要なのだ。
これは休日、家にいる時に限る。
15時に至るまでの苦節、苦悩を皆さんに是非、聞いていただきたい。
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午前10時
窓から漏れる日差しと共に、目を覚ます。外では鳥も鳴いている。
悪くない目覚めだ。幸先が良い。良い一日の匂いがする。
その匂いを噛みしめ、身体を起こし、携帯を手に取る。
昨日寝ながら、聞いていたラジオが最後まで再生されている。
寝落ちしてしまっていた為、記憶を遡り、途中から再生しなおす。
携帯をポケットにいれ、リビングに出る。
換気扇の下に行き、タバコに火をつける。寝起きのタバコは格別である。
それに併せて、お気に入りのラジオ番組が耳に入ってくる。更にいい匂いが増す。
暫く、ラジオを聴きながら、耽っていると、時刻は11時になっていた。

午前11時
お腹が空く。しかし僕はなにも食べない。家で料理するのが億劫なのもあるが、
まあ億劫なのだ。しかも、まだ食べるには早い。
別の事で気を紛らわす。読みかけの本を手に取り、読み進める。
夢中で読んでいたのか、空腹はどこかへ行き、気が付くと12時になっていた。

午前12時
本を閉じ、テレビをつけ、お昼の情報番組に目を通す。
世間では、僕がのんびり休日を謳歌している時に、無益な殺人、芸能人のスキャンダル、
様々な出来事が繰り広げられている。
もっと良いニュースは無いのか。あまり気分が良いものでは無い。
チャンネルを変えると、ローストビーフ特集をやっていた。
誰がどう見ても美味しそうなその見た目に、僕のお腹は悲鳴をあげていた。
空腹がまた襲ってくる。食欲というのは厄介である。
そろそろ飯時か。時間的には申し分ない。
が、動く気になれない。立ち上がることすら腰が重い。
とんだ面倒くさがり屋だ。しかし、休日くらい自由に自分の思うように動きたい。
僕の億劫は、空腹に勝った。

午後1時
僕はソファに横になり、だらだらと過ごす。
気が付くと、瞼が重くなり、僕は夢の中へ旅経つ。
ハッと目を覚ます。慌てて時計を見ると午後2時を過ぎていた。
良かった。まだ3時にはなっていないと安堵する。

午後2時
タバコを吸いに再び、換気扇の下へと向かう。
しまった。タバコはさっきの一本でラストだった。
僕は近くのコンビニにタバコを買いに行く選択を選ぶ。
ご飯を食べるのには、なかなか身体が動かないのに、タバコを買いに行くことに関しては
やぶさかではない。人間とは愚かである。とういうより、僕がただのダメ人間である。
玄関を開け、近くのコンビニへと向かう。風が心地いい。
割と田舎なので、人通りは少ない。というか誰もいない。閑散としていた。
静かでなにより。
僕は店内へ着き、一目散にレジへ向かい、タバコを買う。
優しそうなおばちゃんが、「はいはい」、と言ってお目当てのタバコのバーコードを読み取る。
しまった。急いで出てきたので、財布を持ってくるのを忘れた。
僕は、その旨をおばちゃんに伝え、急いで家に財布を取りに帰った。
財布を無事に手に入れ、再び、おばちゃんの待つ、コンビニへと向かう。
駐車場には、先程は無かった、車がエンジンをつけたまま一台停まっていた。
店内へ入ろうと、中を見ると、なにやらとんでもないことになっていた。
覆面マスクを被ったやつが、おばちゃんに銃口を向けていた。
コンビニ強盗だ。うん、コンビニ強盗。間違いない。コンビニ強盗。
コスプレかとも疑ったが、完全にコンビニ強盗。現実逃避をしている場合ではない。
不幸中の幸いか、覆面野郎は、僕の存在に気付いていない。
冷静になれ。警察だ。まず警察に電話しよう。ポケットに手を入れる。
しまった。携帯は家に置いてきてしまった。なんて大事な時に。
僕はこの短時間に3回も、漫画のような、「しまった」を経験するなんて。
ましてや、コンビニ強盗なんて、これまた漫画のような展開だ。
一回、家に取りに帰るか。いや、その間におばちゃんの身になにかあってはまずい。
近隣の方に助けを求めるか。家に突撃してこの状況をうまく伝えられる自信も無い。
周りを見渡す。人は誰もいない。くそう。考えてる時間が勿体ない。
僕は意を決して、自動ドアを開け、そのまま覆面マスク野郎を目掛け、突撃した。
覆面野郎がそのまま倒れ、僕が上に乗っかる。その流れで怯んだ隙に、僕は銃を奪う。
よし。勝った。そう思ったのも束の間。迂闊だった。覆面野郎は3人組だった。
もっと冷静に考えて行動するべきだった。1人なはずがないもの。
そりゃあそうだよね。僕はあっという間に囲まれた。文字通り窮地に追い込まれた。
奪った銃も奪い返され、3方向から、銃を突きつけられた。
僕は為す術無く、両手をあげ、その場に座りつくす。
一人が再び、おばちゃんに向かい、金を要求する。
おばちゃんは静かにレジを開け、渡されたバックにゆっくりお金をつめる。
「早くしろ」と煽るが、おばちゃんはそれでもマイペースにお金をつめる。
静かにやり過ごすしかないのか。財布を忘れてなければ、と思ってはいけないことも思ってしまう。携帯を持ってきていればと、とも思う。
緊張感が走るなか、外から音が聞こえてくる。それは紛れもなくパトカーの音だった。
3人組は慌てて、お金をつめてる最中のバックを強引に引っ張り、店内を急ぎ足で出る。
助かった。と思い深き息を吐く。おばちゃんの方に目をやると、おばちゃんは僕の方を見て
ニヤリと笑った。僕は戸惑ったが、おばちゃんが右手に握っているものを自慢げに見せてきた。それは緊急時用のセコムのボタンであった。なるほど。
既に呼んでいたのか。策士である。しかも笑っている。時間稼ぎも鮮やかなものであった。
肝が据わっている。初めておばちゃんという存在を「かっこいい」と思った。
伊達に長生きしてねぇぞといったところか。
そこからはあっけないものであった。逃げた3人組は、駆け付けた警察官に捕まり、
あっという間に取り押さえられた。僕はおばちゃんに一礼し、ふと時計を見る。
まずい。時刻は2時50分であった。3時には家に帰らなくては。
このまま店内いては、事情聴取やらで、絶対に3時は過ぎる。
3時を過ぎてしまうと、今日一日が全て水の泡だ。
僕は、覆面野郎並みに足早で店内を出ようとする。なにか悪いことをした気分だ。
僕はおばちゃんに「ごめんなさい。3時には家に帰らないといけないので!」
と一言、声をかけ店内を出ようとすると、おばちゃんは特に理由を聞かず
「勇敢だったわよ。ありがとう。これはお礼」と言い、
高そうなカステラを僕に投げてきた。
「ありがとうございます。」僕はもう一度、頭を下げ、足早に家に向かった。

午後3時
ふう。間に合った。目まぐるしい時間であった。
無事に3時を迎えられた事に感謝する。
待ちに待った時間のおでましだ。僕はこの日のこの時間の為に用意していた
お菓子を棚から取り出す。冷蔵庫から烏龍茶を取り出し、テーブルに置く。
ふと、先程おばちゃんからもらった、カステラが目に入る。
そうだ。今日はカステラにしよう。一度出したお菓子をしまう。
「いただきます」手を合わせる。

午後3時30分
無事、3時のおやつを終える。
人生最高のカステラ、人生最高の3時であった。
-おばちゃんに敬意を表して-

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