3番街レトロ

雑多な人混みを掻き分け、賑やかな一番街を抜けると、二番街へと続く通りへ出る。
人通りは減るが、一番街に負けじと賑わいを見せる。
多くの飲食店が並び、どこのお店も繁盛している様子だ。
独特な匂いを放ち、涎が出そうになるのを抑え、更に奥へと進む。
細い路地裏を抜けると、三番街へと出る。
古き良き懐かしくもあり、それでいて不気味な雰囲気が漂う。
空き家が並ぶ中、一軒だけ営業しているお店がある。

「3番街レトロ」と今にも壊れそうな看板に書いてある。
決して大きくは無く、小ぢんまりとしたお店である。
一見、古いおもちゃや、食器が売られていると思われそうな店名だが、
実はドーナツ屋である。
店前にはショーケースがあり、多種多様なドーナツが並んでいる。
お世辞にも美味しそうな見た目とは言えないが、どこか惹かれるものがあった。
「レトロドーナツ」店名にもなっているしこれにしよう。
気が付くと僕は、ドーナツを頼んでいた。
そこで初めて、店員であろう老婆が声を発した。
「まいど。120円だよ。」
一礼し、握りしめてた500円玉を老婆に渡す。
「380円」とだけ言い、僕はお釣りを受け取る。
なんだか全てを見透かされている気がする喋り方であった。
僕はまた一礼し、その場を離れ、無造作に置いてある、レンガの山に座り、
先程買った、ドーナツを口に運ぶ。
美味しいは美味しいが、格別に美味しいわけではない。妥当な味である。
しかし、何故だろうか、懐かしい気分になる。
ふと目を瞑ると、僕はどこかの部屋の中にいた。周りには、ブリキのおもちゃや、どこかで見た事あるようなパンダのお面が乱雑に置いてある。
昭和の匂いがした。
良く見るとこの部屋にはドアも窓も無い。僕は昭和に閉じ込められたのか。
僕はつい寝てしまい、夢の中に入り込んでしまったと思ったが、どうやら夢でも無いらしい。
意識もはっきりとしている。為す術も無く、おもちゃで遊んでみることにした。
子供のようにおもちゃの車を動かしてみたり、ぜんまいで動くネズミを走らせてみたり。
夢中になってしまったみたいだ。どんどん意識が遠のいていく。
気が付くと僕はゆりかごに揺られていた。上にはくるくるとメリーが回っている。
声が出ない。いや、声は出る。正確には思った通りに言葉が出てこない。
泣けてくる。「おぎゃーおぎゃー」声も一緒に漏れる。
くるくると回るメリーを見つめながら、僕はそっと目を閉じた。
閉じてしまった。
全てを悟った時には、遅かった。
ゆりかごの上には少しの硬貨が音を鳴らし、メリーは相変わらず回っていた。

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