ドラマシナリオ「拾うな、危険」
シナリオセンターの10枚シナリオの課題です。
課題は「帽子」。
添削後、修正したものをアップするため、分量は10枚を超えています。
○人 物
河西帆乃香(28)…会社員
磯村磯村(29)…探偵・帆乃香の元彼
橋本敦(31)…西部鉄道員・帆乃香の彼氏
店員…喫茶店「ひまわり」の店員
○喫茶店・ひまわり・店内
店内の人々は、ランチを楽しんでいる。
ハンバーグランチを大きな口で頬張る河西帆乃香(28)。
手はプニプニ、顔は二重あご、お腹がぽっこりと出ている。
帆乃香「すみません。ごはん大盛り、おかわりで」
店員「かしこまりました」
おかわりのごはんとハンバーグを頬張る帆乃香。
帆乃香の前にあった食事はすべてお皿だけになっている。
帆乃香「食べた食べたぁ…」
帆乃香、お財布から、1100円を取り出すと、100円が隣のテーブルの下に落ちる。
テーブル下には、水色の駅員の帽子が落ちている。帽子の淵には長谷部と書かれている。
帆乃香、その帽子を手に持ち、じっと見つめる。
○(回想)・駅・構内
T「1年前」
歩いている帆乃香(27)。
水色の駅員の帽子が落ちている。帽子の淵には橋本と書かれている。
橋本敦(31)が走っている。
橋本「あ」
帆乃香「もしかして、これ…?」
橋本「ありがとうございます」
ニカッと笑う橋本。
それを見て、頬を染める帆乃香。
○喫茶店・ひまわり・店内
T「現在」
帽子をじっと見つめて、ほほ笑む帆乃香。
店内に磯村磯村(29)が入ってくる。
磯村「すみません、ここに帽子ありませんでしたか?」
磯村の方を見る帆乃香。帆乃香はハッとして、メニューで顔を隠す。
磯村「席見てもいいですか?」
店員「はい」
磯村、帆乃香の隣の席で駅員帽を探す。
帆乃香の席にある駅員帽に気付く磯村。
磯村「あ、それ、僕のです」
帆乃香、まだメニューで顔を隠している。
帆乃香「(低い声)あ、そうなんですね!よかったですー!」
磯村「あ、何かお礼を…」
帆乃香「(低い声)そんな大丈夫です」
店員「お客様、見つかりましたか?」
磯村「あ、はい。この方が…」
帆乃香、まだメニューで顔を隠している。首をかしげる磯村。
磯村「この方にモンブランひとつ」
帆乃香「モ、モンブラン!」
帆乃香、メニューから一瞬にして顔を出す。
帆乃香「あ…!」
目を見開いて磯村を見る帆乃香。
磯村「…本当にありがとうございます」
帆乃香「…いえ」
磯村「これ、食べてってください」
磯村、帆乃香に一礼して、去ろうとすると
磯村「あ、お名前、教えて頂けますか」
帆乃香「……またその手法かよ」
そう言って舌打ちをする帆乃香。
磯村、目を見開いている。
帆乃香「どーも。はじめまして。河西
帆乃香です」
磯村「え…は?はぁぁぁ?!」
帆乃香「…あんた、また帽子なんか落してんじゃないわよ!いつか再会し
たら、絶対にあんたに文句言ってやる!って決めたんだから。
てゆうか、あんたが3年前、急に失踪して私を振ったせいでね、私は、30㎏も太ったんだから!わかる?!30㎏よ!30㎏!
まぁ、でも今は、すんごく素敵な彼氏がいて、超幸せなんですけど
ね!はぁ、すっきりした。じゃ」
店員、モンブランを持ってくる。
そのモンブランを手で掴み、大きくひと口食べ、モンブランを持ったまま店を出ていく帆乃香。
磯村は、茫然と立っている。
○道
スキップをしている帆乃香。
帆乃香、急に立ち止まる。
帆乃香「あれ…?長谷部って誰だ?」
帆乃香、眉間にしわを寄せ、首をかしげる。
またスキップをして歩き出す帆乃香。
○河西家・中・夕
敦がソファーでくつろいでいる。
帆乃香、ビールを持ってくる。
帆乃香「じゃあ、おつかれさま」
敦「あーうんめぇ。そして幸せ」
帆乃香、敦を見て微笑む。
敦「ずっとこのままで居たいわー!」
帆乃香をぎゅっと抱きしめる敦。
敦「このムチムチの抱き心地が最高」
帆乃香「じゃあ今日こそ泊ってく?」
敦「あー明日も朝早いんだよな」
帆乃香「尚更じゃん!」
敦「うーん…」
敦の携帯が何度も鳴っている。
それに気付く、帆乃香。
帆乃香「電話、鳴ってる」
敦「…仕事の電話だろ」
帆乃香を抱きしめる、敦。
帆乃香「あ、ねぇ、駅員の帽子ってさ、
駅員しか持ってないよね?」
敦「当たり前だろ」
帆乃香「…今日ひまわりでさぁ、落してた人いたんだよねぇ!帽子に長谷
部って書いてあってさぁ」
敦「あぁ、あいつか」
帆乃香「は、長谷部しゃん?」
敦「おおう、長谷部しゃん」
帆乃香「仲良いの?」
敦「普通。まぁたまに飯行くくらい」
帆乃香「ふぅ~ん」
帆乃香、眉間にシワを寄せる。
○道
河西家の前の道の電柱に裏にいる磯村。
河西家を見つめている磯村。
磯村は黒いジャケットを身にまとっている。
磯村「あーあーまじかよ…」
ため息をつき、タバコを吸いながら、月を見る磯村。
○河西家・玄関前・外・夕
敦と帆乃香が河西家から出てくる。
敦「じゃあな。おやすみ」
帆乃香「うん。おやすみ」
帆乃香、笑顔で手を振る。
敦の背中を見ながら、ため息をつく帆乃香。
磯村「バーカ」
帆乃香、キョロキョロと辺りを見渡す。首をかしげる帆乃香。
電柱の裏から、磯村が出てくる。
磯村「お前、ホント男運ねえな」
帆乃香「は?!え、てかなんでここにいんの?ストーカー?!」
磯村「誰が元カノストーカーすんだよ」
帆乃香「じゃあなんでこんなとこ、いんのよ」
磯村「仕事」
帆乃香「……気持ち悪っ」
帆乃香、家に入ろうとすると、磯村が手を引っ張る。
帆乃香「何」
磯村「あいつ、他に女いんだろ?」
帆乃香「は?」
磯村「ホント最悪だよ…」
帆乃香「はぁぁ?!最悪なのはどっちよ!じゃ!」
速足で家に入ろうとする帆乃香。
磯村「おい!…パフェ、食いたくね?」
帆乃香、立ち止り、ゆっくり振り向く。
磯村「はい、決まりな」
磯村、帆乃香の手を引く。
帆乃香「ちょっと待って。その前に質問がある。長谷部って誰?…あと男運
ないって、あんたのこと?」
磯村「……お前、不倫してるから」
帆乃香「はぁあ?!何言ってんの?」
磯村「俺はあいつ、お前の彼氏、橋本敦の奥さんからの依頼で、浮気調査し
てんだよ」
帆乃香「…頭大丈夫?何言ってんの?」
磯村「長谷部航、西部鉄道、駅員。俺が今やってんのは探偵。で、橋本敦の
不倫相手はまさかのお前」
帆乃香「そんなの信じる訳ないでしょ」
磯村「お前、何も変わってねえな」
帆乃香「え?」
磯村「俺は探偵。初めても、今日も、お前との出会いはまぐれじゃねえ。わりーな」
固まる、帆乃香。
磯村「お前、もう帽子拾うなよ」
磯村、帆乃香の頭をポンとして、ゆっくりと歩き出す。
帆乃香、磯村の後ろ姿をじっと見つめている。
半月を見つめる帆乃香。
帆乃香「今、幸せだもん」
半月に雲がかかる。
帆乃香、それでも月を見ている。
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