【欧州HR見聞録#3】欧州International HR Dayレポート_人材マネジメントにAIをどのように活用するか
先週、WFPMA(世界人事協会連盟)の欧州加盟団体によって運営されるEAPM(欧州人材マネジメント協会)が主催する、The 2024 International HR Day Webinarに参加してきました!
International HR Dayは、リトアニア代表がEAPM内で提案して始まった、人事業界の世界的イニシアチブです。
(EAPM加盟国ではない英米においても、International HR Dayを記念して、これからの人事に関するメッセージや提言を発信しています。)
今年のテーマは、
UNLEASHING POTENTIAL:
EMBRACING AI FOR FUTURE-READY WORKPLACES
(可能性を解き放つ:
~未来に対応した職場とするために、AIをいかに取り入れるか~)
上記のテーマに対し、欧州の様々な国から、実務家、教育者、学者たちの多角的な視点でプレゼンテーションがなされました。
全体を通じて、
「AIが人間の仕事を奪うのではない。
AIをレバレッジとして価値を高めるのだ」
という価値観のもと、いかにAIを活用し、人間のパフォーマンス※を高めるかについて論じられた印象でした。
(※今回はHRのイベントなので、ビジネスの価値向上はさておき)
備忘も兼ねて、印象的な活用事例や個人的な学びを共有したいと思います。
Generative AIのHR活用事例:今や、AIがJDやフィードバックコメントを下書きする時代!
1年前の時点では、人事業務におけるAIの活用事例といえば、
社内手続きに関するチャットボット機能
e-learningのレコメンド機能
採用プロセス上の応募者スクリーニング
等が中心でした。
しかし、今や、Generative AIの台頭もあり、
AIがJD(ジョブディスクリプション)をドラフトし、人間は確認・ブラッシュアップするのみ
・デロイトノルウェーのクライアントである大企業にて実装。約80%の工数削減
・セールスフォースでは、欧州他国のJDへの書き換えのドラフトもパフォーマンス評価において、上司から部下へのフィードバックコメントをAIが提案
・セールスフォースアイルランドでは、自社のビジョン・価値観、組織・個人の目標、対象となる部下の成果等のデータをもとに、AIがフィードバックコメントをレコメンド。その結果、上司のフィードバックの質が向上人事データの分析・資料のドラフトはAIが実施
AIによるオンボーディング支援も準備中
AIによる世界中の従業員のスキルの可視化と、スキルをふまえたキャリア構築支援もスコープに
等の、活用事例または活用に向けた検討状況が報告なされました。
「倫理観」のジレンマは永遠の課題
一方で、ノルウェーの大企業Telenorグループでは、約7年かけて1万人超もの従業員のデータを収拾し、Generative AIによる退職予想モデルを構築したそうです。
その結果、60%の確率で退職予想が的中したものの(人間が予想するより遥かに高い確率!)、なんと、生産・販売は行わない意思決定をくだしたというのです!
その理由は、やはり「倫理観」。
AIがディープラーニングにより出した結論に明確な説明根拠が伴わないこと、退職が予想される人にのみ手厚い支援がされることへの不公平感が、理由となったそうです。
ただ、それは、AIの不確実性を頭から排除するということではなく。
従業員がその不確実性を認識し、公平に利用できるルール作りが不可欠である、というメッセージでした。
そしてそれは、複数のプレゼンターの方々からも同様に受け取りました。
「自社のビジネスモデルにおいて、どこに新しいレベルの生産性が求められているのか。…私たちが創造できる新たな従業員価値は何か。従業員が求めるスキル・ツールは何か。…私たちは戦略を立てることが重要だ。」
従業員エクスペリエンスを重視するセールスフォースらしい、Niamh氏のお言葉でした。
日本の大企業では、石橋を叩いて渡る傾向があり、不確実なことはやらない(確実になるまで精査・研究し続ける)ことが多いです。
この目まぐるしく進化するテクノロジーを前に、そのスタンスだと置いていかれるなと改めて危機感を覚えつつ。
一方で、従業員との対話を尊重し、公平なルール作りを徹底するという風土は、テクノロジーに翻弄されず、テクノロジーを「活用」できる組織たる重要な要素であると感じました。
良い風土はこれからも活かしていきたいですね。
変化し続けるビジネス環境で注目される、個人の「スキル」
テクノロジーの進化に伴い、ものすごいスピードでビジネスは移り変わり、
それに伴い、従業員のジョブも日々変化しています。
従って、行うべきジョブという観点よりも、「どのような価値を生み出すか」にコミットする人材戦略が主流となりつつあります。
そして、欧州ではすでに、その価値を生み出すにあたって必要な「スキル」に着目した採用やタレントマネジメントが定着しつつあると感じています。
スキルをカッツモデルで区分すると以下の通りですが。
ジョブの専門性の核となる「テクニカルスキル」
解のない中で状況を概念化し、筋道を立てる「コンセプチュアルスキル」
対話や関係構築を司る「ヒューマンスキル」
Generative AIの台頭により、従来以上に、構想力、判断力、コミュニケーション能力、リーダーシップ等、「人間にしかできない」コンセプチュアルスキルやヒューマンスキルが重視されていることは自明です。
その中でも、加速度的に変わりゆくビジネスに伴ってテクニカルスキルも日々更新されていく中で、
自ら「問い」を立て、「学び続ける」力
が、これからの時代を生き抜くうえで鍵となるのではないでしょうか。
自ら「問い」を立て「学び続ける」人材が求められている
HR領域へのAIの活用について、1年前、日本のデロイトで議論していた時は、世界的に見てもまだ実例に乏しかったものの。
たった1年の間に、欧州各国で様々な取り組みや研究がなされていることを知り、技術の進歩のスピードの速さを実感しました。
その変化スピードにキャッチアップしていくためには、膨大な選択肢の中で、自らにとって有意な「問い」を立て、主体的に「学び続ける力」が、これからの時代を生き抜くうえで必要不可欠な能力だと痛感しています。
まさに今回、リトアニアのAusteja先生のプレゼンテーションにおいて、
「今の時代、スキルギャップがあることは正常である」
「スキルは常に開発されるものである」
「AIは、スキル開発をパーソナライズするのに役立つツールである」
というメッセージに、強く共感しました。
目指すべき状況に対して自らのスキルギャップがあることを所与のものとして、どうすればそれを埋められるか主体的に考え、ツールを駆使してアプローチする青少年の事例を聞き、耳が痛くなりましたが…(恥)
学習テーマや内容、学び方に正解はありません。
無理をして心身のバランスを崩しては本末転倒です。
ということで。
今の自分が自由に使える時間内で取り組めることを、まずは1つ、地道にやり遂げようと心新たに決心しました。
共通する「Vision」で繋ぐ人材戦略
スキルやキャリアがパーソナライズされる時代だからこそ、同じ目標に取り組む組織・チームとしての、ゆるぎない「共通のビジョン・価値観」がいっそう重要になっている
ということは、本イベントの講演を聞く中でも再認識しました。
逆に個人の目線でも、たった一人で時代の変化にキャッチアップし、最新のテクノロジーに投資していくことは至難の業ゆえ、共感する組織・チームに所属し、主体的に働ける環境があるのは有難いことだと思います。
組織への従属か、孤立奮闘か…
そんな時代はもう終わり。
個人として自立しながら、組織・チームとして世の中に影響力を発揮する時代が到来しています。
そして、主体的な個人が多数コミットしている企業こそ、これからも成長し続けると、強く感じました。
マーケットにおいて、魅力的な人材とは、コミットしたくなる企業とは。
示唆深い数時間でした。
追伸:国境を超えて「共通の目標」に取り組む意義
今回のイベントの最後に、International Steps Challengeという活動へのコミットが提唱されました。
SDGsの旗印のもと、EU中の人がともにウォーキングして、世界100周(分の歩数)を達成しよう!というものです。
日本だと、そのような活動を開催しても、参加者が限定的だったり、他の人の動向を見てから参加する人が多かったりしますが。
驚くべきことに、イベントのオープンチャットでは、多くの参加者が「早速登録したよ!」「自社でも参加するわ!」「従業員にシェアする!」等々、瞬時に多数の人がリアクションしていたのです。
もちろん、ノーリアクション×スルーの人も多数いたと思いますが。想像以上のコメント数に、日本人の私はびっくりしたわけです。
良い意味で快楽主義というか肩ひじ張らない雰囲気というか…
(日本の大企業勤務時代、誰と誰の許可が必要かとか、それは労働時間かどうかとか、アプリのダウンロード許可を取るために書類がたくさん必要とか…、社内制度上のハードルが多すぎて、新しいことを提案するのやめとこ…となることもしばしば。。。)
それよりも優先すべき仕事あるよね!?というツッコミどころはさておき。
楽しそうなことに気軽にジョインして、それをきっかけに関係性を深める風土は、欧州の魅力的なところだなと思いました。
というわけで、以上、International HR Dayのイベントサマリ&感想でした!
英語の理解が追いつかず、何度も録音を聞きなおしたり読み直したりしながらでしたが(汗)、この記事の執筆を通して咀嚼できました(笑)
皆さま、最後までお読みいただき、ありがとうございました!