見出し画像

【イベント出店で損しないために】その5 助けてくれる人、助けてくれない人

【イベント出店で損しないために】その4 大損ならば小損にしてしまおう はこちら

キャスターがついた自分の荷物をガラガラと引きながら、私は考えを巡らせていました。

イベント出入口というだれもが通る絶好の場所を追われたことで、売上は昨日よりも悪くなるかもしれない。このままだと大赤字で終わってしまうかも。
でも、逆に考えれば、トイレなら多くの人が立ち寄る場所だし、目に付きやすいかもしれない。イベント会場の僻地にポツネンとあることでかえって目立つし、ライバルもいないし、もしかしたら集客も容易かもしれない。幸い、僻地には僻地なりの小さな展示もある。ーーそんなことを考えながら力なく歩き、視線を前にやると、団塊親父たちはすでに指さされていた会場の隅に到着していました。そして荷をおろし、数あるダンボールの中からテントを探り当て、遠くにいるわたしのことは見もせずテキパキと組み立てています。
「……やっぱり帰ろうかな」
とも思いましたが、ここまで準備してくれたらもう腹をくくるしかないと思いました。
わたしは「ありがとうございます」と頭を下げて、昨晩せっせと作った掲示を広げ、やる気なく準備を始めました。
すると、最初にこのイベントに出ないかと声をかけてくれた職員の方が「あれ〜〜〜?」と言いながらやってきました。
なんで加藤さんこごでしったなや?(加藤さんなんでここでやってるの?)」
なんか、会長さんがこっちのほいあんでねがって言てで……こっちさなりましたアハハハ……(なんか、会長さんがこっちのほうがいいんじゃないかって言ってて……こっちになりました……アハハ)」
えええ〜〜〜……!?
びっくりして張り付いた笑顔の職員さん。ほ、ほんとで〜? ひんでのぉ(ひどいねえ)……と言いながら、準備を手伝ってくれました。近くを通った彼の部下にも声をかけ、段ボールを持ってくるように言うと、それをテキパキと切ったり貼ったりして、掲示物を貼る看板を作ってくれます。風が吹いても掲示物がパラパラとめくれないよう補強してくれたのです。ありがたや……でも悲しいかなこの現状と場所……。

すると、「こっちさいげって言われだがら〜(こっちに行けって言われたから〜)」と言いながら、別の50代くらいのメガネの華奢な男性がやってきます。彼は掲示物を貼ったりコップや瓶を置く私達を横目に見ながら、テントの下にパイプ椅子を広げると「へぇ〜飲み物売んなぁ(へぇ〜飲み物売るの〜)」と言っていました。

店舗の準備も終わり、先ほどの職員さんと部下も自分の持ち場へと帰っていきました。そして、きのうと同じような抜けるような青空のもと、アナウンスが入ります。
「みなさま、本日はお越しいただきまして、誠にありがとうございます。定刻よりも少し早い時間ではありますが、これより開場いたします……」
見ると、大勢の方が入口付近から移動していくのが見えます。こちらには……見向きはする方もいらっしゃるものの、誰も近づいては来ません。
「人来ないねえ」
華奢なメガネの男性が、両手で自分の後頭部を包みながら、パイプ椅子でふんぞり返りながら言っています。
「まあ、最初ですから……」
わたしは立ってドキドキしながら答えました。
開場から10分。相変わらず人の波は彼方にあり、例の団塊親父たちがレトルトカレーの囲い込み漁をしています。それを見て、
「うわ〜人っ子一人来ないねえ」
と男性は言います。
「天気はいいのにねえ。やっぱり場所悪いんじゃないの?」
「まあ……。」
わたしは(こっちだって来たくて来たんじゃないわい)と思いながら、なんとなく答えました。
開場から20分。やはり誰も来ません。
「うわ〜〜〜ほんとに誰も来ないねぇ。今日だめなんじゃないの? 飲み物なら水だって隣に無料なのあるし。」
と、男性は言います。
だんだん面倒になって「はあ」としか答えないわたし。

開場から45分。私のテントから10mくらい離れたところで、トイレに向かう父親が、小学校3年生くらいの男の子に「飲む?」と言っているのが聞こえました。そして、帰りに「レモネードありますか?」と寄ってくれました! 遂に、やっと、初めてのお客様です!
「ありがとうございます! たっぷりありますよー!」
今日最初のお客様にわたしは満面の笑みで答えました。その後もトイレに行った方がチラホラと来て下さり、ドリンクを作りながら顔を上げると、目の前には3人ほどの列が出来ていました。やった! 
ドリンクを作り終えたわたしは、
「今日はじめてのお客様で、嬉しいのでちょっと濃い目にオマケしておきました! ありがとうございましたー!」
と威勢よく渡しました。
ありがたや……。もしかしたら、この場所で当たりだったかもしれない! 
「お待たせしました! ありがとうございましたー!」
その後の注文も渡し終わり、お代を金庫に入れると、例の男性は相変わらずパイプ椅子に座りながらこう言います。
「人来て待たせるんだったらコップに氷入れでおげば?」
お客さんが来ても、特に動くでもなく、立つでもなく、ただ「いた」彼にわたしは苛立ちを覚えました。
「まあそうなんですけど、この暑さだと氷が溶けて分量変わるし味も薄くなります」
「でもそうは言ってもよ〜、待だせるよりいあんじゃね?」
「じゃあ、わたしがドリンク作ってる間に氷準備してもらっていいですか?」
「おれが?」
男性は半笑いでこちらを見ています。
父母会長の「てづでよごすさげ」を期待していましたが、全く手伝わない男性に完全にイライラした私は、「自分は生意気だなあ」と思いながらも苛立った声で聞いてみました。
「あの……会長さんからは手伝い寄越すって言われてるんですけど、お金の受け渡しくらいはお願いしてもいいですか?」
「はあ? 飲み物、何あっがよっくわがんねし」
この小一時間ほどずっと男性と私の目の前に置かれていたメニューを指差して、無表情でわたしは言います。
「ここに書いてますけど。その通りに計算してお金受け取ってください」
さすがに若いネーチャンからそう言われてイラっとしたのか、男性はこう続けます。
「おれ、こっちさいればいいって言われだがらいるあんけど? おれが働ぐな期待してるわげ? それなら役不足で〜す」
と言って、両腕を広げました。

イラァァァァァァァァ

「え、手伝い寄越すって言われてるんですけど」
明らかに怒る私と、鼻で笑う男性。
「オレじゃ役不足ですので、他の人呼んできまぁ〜す」

「ハァやれやれ」とでも言うように、腕をブラブラさせながら、男性は父母会のテントへと戻っていきました。

わたしが、怒りと、「たぶん父母会も手に余ったんだろうなぁ、あの人」という変な納得をしていると、今度は同じく50代くらいの割腹のいいメガネの男性が現れました。

「別の人どご寄越せって言われだがら、来たぞ」

夏のうだるような暑さだけではない空気をテント内に充満させながら、ドリンク販売は再開されました。

【イベント出店で損しないために】その6 すばらしいアンチャだぢ

いただいたお金は、これからの活動の継続と、古い店舗の改修費用、そして普段ボロ雑巾のように働いている自分へのご褒美のために銭湯代等で使わさせていただきます。少額でもめっちゃうれしいです。超絶ウェルカムです。