森のなかのあかんぼう

　　　　　　　　１

　もりのなかに　にんげんのあかんぼうが　だっこひもをつけたまま　ぽつんと　おかれています　
　そこはまだ　もりのいりぐちに　ちかいと
ところです
　そのなきごえは　もりのおくのほうまで　ひびきわたっていました

　　　　　　　　　２

　そのなきごえをきいて　まずさいしょに　おサルさんがやってきました
　「おやおや　やっぱり　にんげんのあかんぼうだ　なんでまた　こんなところに」
　おサルさんは　あかんぼうを　なきやませようとします　
　おサルさんは　ベロベロバー　　ベロベロバーと　なんどかしてみます
　しかし　あかんぼうは　なきやみません
　おサルさんは　あきらめて　さっていきました

　　　　　　　　　３

　つぎに　やってきたのは　クマさんでした　
　「おいおい　なにかとおもえば　にんげんのあかんぼうじゃないか」　
　クマさんも　あかんぼうを　なきやませようとしてみます　
　クマさんは　おとくいの　ダンスを　みせてあげました　
　なのに　あかんぼうは　なきやみませんでした　
　クマさんも　あきらめて　さっていってしまいました

　　　　　　　　　４

　つぎに　やってきたのは　ヒョウさんです
　「あらあら　こんなところに　にんげんのあかんぼうが」
　ヒョウさんも　あかんぼうを　なきやませようとしてみます　
　ヒョウさんは　れんしゅうしている　パントマイムを　みせてあげました　
　だけど　ひととおりやってみましたが　あ
かんぼうは　なきやんではくれません　
　ヒョウさんも　あきらめて　さっていきます

　　　　　　　　　５

　つぎに　やってきたのは　オオカミさんです　
　「なんだいこりゃ　にんげんのあかんぼう
だぞ」
　オオカミさんも　あかんぼうを　なきやませようとします　
　オオカミさんは　ひょうばんのうたを　うたってあげました　
　けれど　あかんぼうは　なきつづけています
オオカミさんも　あきらめて　さっていくのでした

　　　　　　　　　６

　つぎに　やってきたのは　ゴリラさんです　
　「これは　たいへん　にんげんのあかんぼうだわ」
　ゴリラさんも　あかんぼうを　なきやませようとしてみます　　　　
　ゴリラさんは　だっこを　してあげました　
　だけれど　しばらくだっこして　あやしてみても　あかんぼうは　ずっとないたままです
　ゴリラさんも　あきらめて　さっていってしまいます
　
　　　　　　　　　７

　つぎに　はしってやってきたのは　トラさんでした　
　「おっとっと　おもったとおり　にんげんのあかんぼうだ」
　トラさんも　あかんぼうを　なきやませようとします　　
　トラさんは　さいきんはじめたばかりの　てじなを　みせてあげることにしました　
　けれども　からだにしこんだてじなを　いくつかみせてあげても　あかんぼうは　なき　　
やむことはありませんでした　
　トラさんも　あきらめて　さっていってしまうのでした

　　　　　　　　　　８

　つぎに　やってきたのは　さいしょにやってきた　おサルさんでした　
　おサルさんは　きになって　もどってきたのです　
　おサルさんは　こんどは　いないいないばーを　ぜんりょくで　やってみました
　ところが　なんどやってみたところで　やっぱりあかんぼうは　なくことをやめません
　おサルさんは　かおのきんにくを　すこしいためて　がっかりしながら　また　さっていきました

　　　　　　　　　　９

　つぎに　やってきたのは　にばんめにやってきた　クマさんです
　おなじくクマさんも　きになって　もどってきたのです　
　クマさんは　ふたたび　ダンスをみせました　
　さっきとはちがう　ブレイクダンスというものです　　
　あまり　れんしゅうしたことのない　ダンスでしたが　やってみます
　はじめは　うまくいっていましたが　とちゅうでしっぱいして　すこしくびを　いためてしまいました　
　そこまでしても　あかんぼうは　ひたすらなきつづけています
　クマさんは　しょんぼりして　くびをおさえながら　また　さっていってしまいました

　　　　　　　　　１０

　つぎに　やってきたのは　さんばんめにやってきた　ヒョウさんです　
　ヒョウさんも　きになってきになって　もどってきたのです　
　ヒョウさんも　さっきとはちがう　パントマイムを　みせることにしました　
　それは　かなりむずかしいわざを　とりい
れたものでした　
　ヒョウさんは　ギリギリまで　からだをかたむけましたが　しっぱいしてしまって　あしをすこし　いためてしまいました　　　　
　そうまでしてみても　あかんぼうに　なきやむようすはありません　
　ヒョウさんは　とぼとぼと　あしをかばいながら　また　さっていきます

　　　　　　　　　１１

　つぎに　やってきたのは　よんばめにやってきた　オオカミさんです　
　オオカミさんも　やはりきになって　もどってきたのでした
　オオカミさんも　さきほどとはちがう　べ
つのうたを　きかせてあげることにしました　
　オオカミさんは　ふだんはそうしない　のどをつよくふるわせる　とっておきのうたいかたで　うたいました
　それでも　あかんぼうは　なきやまないのです　
　オオカミさんは　すこしいためたのどを
さすりながら　また　さっていくのでした

　　　　　　　　　１２

　つぎに　やってきたのは　ごばんめにやってきた　ゴリラさんです　
　ゴリラさんも　やっぱりきになって　もどってきたのでした　
　ゴリラさんも　さっきとはちがって　こんどは　たかいたかいを　なんどもしてあげました　
　それなのに　あかんぼうは　どうしても　なきやんではくれません
　ゴリラさんは　すこしいためていた　こし
をもみながら　また　さっていってしまいます

　　　　　　　　　１３

　つぎに　やってきたのは　ろくばんめにやってきた　トラさんです
　トラさんも　どうしてもきになって　こどうぐをもって　もどってきたのでした
　トラさんも　さっきとはまたちがう　あまりせいこうしたことのない　てじなに　ちょうせんしてみました　
　しかしながら　なんかいか　やってみましたが　せいこうしませんでした　
　あかんぼうは　ただもう　なきつづけるば
かりです
　トラさんは　せいこうしないじぶんがなさ
けなくて　こころをすこしいためてしまい
めになみだをためて　また　さっていってしまうのでした

　　　　　　　　　１４

　そこへ　かわいいぼうしをかぶった　しょうがく５ねんせいのおんなのこが　あたりの　ようすをみながら　きのうえから　そろりそろりと　おりてきました　
　おんなのこは　あかんぼうのそばへ　かけよりました
　それから　いそいでおんぶして　ひもをからだに　むすびつけたのでした

　　　　　　　　　１５

　おんなのこは　もりのでくちにむかって
あるいていきました
　ときどき　うしろをふりむいて　ちゅういしながら　あかんぼうに　かたりかけました
「ごめんね　きゅうにかぜがふいてきて
ぼうしが　もりのなかまで　とばされたの　だから　きのうえのえだに　ひっかかったぼうしを　とりにのぼっていたの　パパが　おたんじょうびにくれた　おきにいりのぼうしなの　そうしたらね　どうぶつさんたちが　いれかわりに　つぎつぎとやってきて　たべるまえの　へんなおいのりを　はじめてしまうものだから　なかなか　おりていけなかったの　それにしてもへんね　みんななぜか　たべようとも　しなかったわ」

　　　　　　　　　１６
　
　すると　そのおねえさんの　こえをきいていた　あかんぼうは　いつしか　すっかり　なきやんでいました
　おんなのこは　ホッとして　こわかったねこわかったねと　あかんぼうにいいながら　もりを　でていきました　

　　　　　　　　　１７

　そのようすを　おサルさん　ヒョウさん　クマさん　オオカミさん　ゴリラさん　トラさんらが　それぞれがちがう　きのうしろから　そっと　のぞきこむようにして　みまもっていました　
　そして　みんなも　ようやくホッとして　じぶんのおうちへと　かえっていったのでした
　　　　　　　　　　　　　

　　(おわり)