20230223 荒地の家族 感想

普段全く小説など読まない人間だが、今回「荒地の家族」を買って読んでみた。足が痛くて外に出られないからというのもあったが、何より東日本大震災を扱っている小説ということで前々から気になっていた。

結論から言うと、全く救いようのない展開だった。それが起承転結を帯びることなく、東日本大震災を「転」として登場人物のその後が「結」としていた内容がほとんどだった。故に、映画を見た後のような充実感は無く、「あれ?これで終わり?」と拍子抜けしまった。読む人は選びそうだと感じる。

私は20年弱を宮城で過ごしたため、登場人物(主に年寄り)の方言にリアリティが感じられその部分は楽しかった。特に、方言を表現する際の濁点の使い方が非常に見事だった。地名が至るところに散りばめられていたところも、状況を想像する際の一助になった。また、主人公の再婚相手の経歴や性格を構成する要素が、個人的にはツボだった。仙台育ち、実家が金持ちで箱入り娘となると、女子一貫校(宮城学院or白百合)は結構テンプレである。その後、街中の百貨店勤務っていうのもまた何ともという感じだ。金にも容姿にも恵まれたプライドの高い人なのね、と察しがつく。作中内の言動や行動がトンデモな部分が多いが、妙に納得してしまったのが面白かった。

一方で、文章全体を通して「命の軽さ」に違和感を覚えた。登場人物の大半が自分の大事な人やモノを震災で失っており、そこをずっとひきずっている点については重さを感じる。しかし、これは私の人生経験が少ないのが理由なのかもしれないが、震災以外でも人を失っている場面が多い。端的に言えば「こんな単純にポンポン人が亡くなる物語でいいの?」となる。バランスが難しいと思うのだが、少なくとも自分の中ではそこに納得がいかなかった。

また、震災を題材にした作品ではあるが、あくまで要素の一つに過ぎない点が意外だった。「震災後の救いようの無さにもがく人」ではなく、「震災後もその影響だけで無く、色んな要素で不幸になってしまった人」の物語という印象を受けた。

先述したように、万人に勧められる小説ではないと思う。単純な読み物としては面白いと説明できない。一方で宮城県民には一度読んでみてほしい。鬱屈した話が続くが、当時の事情を全く知らない人たちに比べれば読みやすいのではないだろうか。

最後に、普段読書などしない一凡人の感想がどうであれ、宮城出身の小説家が芥川賞を受賞したことは大変喜ばしいことである。一流のプロが評価した、今ある本の中でも特段価値のある読み物だと言っていいはずだ。佐藤氏には、今後も小説を通して宮城を盛り上げて欲しい。私も今回改めて小説を買って読むきっかけになったし、震災を思い出すきっかけを作ってくれた。感想を記載することを通して、良い休日にさせてもらえたなと思う。

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