そのへんのOLのカジュアルお遍路のすすめ 11 鯛飯編(愛媛⑤)
「反則でしょ宇和島鯛めし」
松山の居酒屋で初めて宇和島鯛めしを食べたとき、脳裏に浮かんだのはその言葉だけだった。
宇和島鯛めしはTKGと鯛茶漬けの奇跡の融合だ。
日本最高峰の郷土料理、いや世界最高峰と言っても過言ではない。
日本の誇る鶏の唐揚げと共にはばたけ世界へ宇和島鯛めし!
その鯛めしの聖地、宇和島に、いよいよ足を踏み入れる。
13日目 宇和島
松山からは特急バスで宇和島に向かう。宇和島へは東京から向かったため、うまくJRの特急宇和海と接続しなかった。
今回使ったのはこの切符。
高知までほぼこの切符の範囲内となる。宇和島までが特急バスでなく急行バスであればそれも範囲内となる。宇和島を過ぎるとバスは範囲外になるので、それがちょっと痛い。
第43番 明石寺
バス停の卯之町営業所からは裏道を通り、高校の前を抜けて坂を上っていけばたどり着く。
徒歩30分ほどだ。
お遍路にも慣れてきて徒歩30分は超近いと思うようになった。
大して上らないし。(お遍路比)
お寺の名前の明石寺はめいせきじと読むが、由来がちょっと変わっていて、女神が石を運んでいたら夜が明けてしまったからという伝説にちなむそうだ。夜が明けたから明石ではなくて石を上げたからあげ石、あけ
女神は白王権現として奥の院に祀られている。千手観音の化身ともいう。
第42番 佛木寺
バス停の卯之町営業所まで戻り、そこからはフジ北宇和島店前まで行く。
乗換のバス停はお向かい(逆側)なので気をつけよう。
丁度お昼なので、フジ(四国ではよく目にするスーパー)はどこかなと見回すが見当たらない。
もしかして潰れてる!?
バス停のある場所は何やら自動車学校? の営業所の前なのだが、最近の建物ではないので、もしかしたらこの裏側にフジがあるかなと回ってみると、あった。
割と大きい店舗だ。飲食店も併設されている。
フジでお寿司のお弁当を買って、バス停でバスを待ちがてら食べてみると、これまでフジで何回かお寿司のお弁当を食べたが、全然違う。お魚プリプリで新鮮で肉厚で甘みがあっておいしい。
スーパーのお寿司でこんなに美味しいの初めてだ。
もしかして宇和島ってお魚がおいしい土地?
だから宇和島鯛めしが生まれたのか!?
乗換のバスは子ども達の遠足か何かとかち合ったらしく、車内は小学生でいっぱいだった。
人が乗り込むのに時間がかかり、運転手も子どもに怪我をさせないようにか心なしか運転が優しい。お陰で30分遅れて道の駅みまに着いたが、コミュニティバスは待っていてくれた。地元のおじいちゃんおばあちゃんと乗り込んで出発だ。常連さんらしく運転手さんはおばあちゃんたちの行き先を暗記している。
行きは道の駅みまからコミュニティバスに乗れる。
田園風景の中に佛木寺はある。
弘法大師がこの地で牛の背に乗せて貰ったという伝説にちなみ、牛馬の守護の寺として崇敬されてきた。
今ではコンパニオンアニマル、つまりペットも守護の対象のようだ。
第41番 龍光寺
佛木寺から龍光寺までは徒歩になる。
風景は気持ちいいので日差しさえなければ快適な道だと思う。
夏の日、炎天下ではどんな素敵な風景も見る余裕がない。
写真だけ見ると気持ちよさそう(笑)
実際は日陰がなくて大変辛かった。時々雲が太陽を隠してくれるのだけが救いだけど気温は下がらない。
途中からは住宅街に入って、階段を上ると龍光寺だ。
神仏習合のにおいが残っているお寺は、四国では幾つもあって、お寺なのに鳥居があることもある。
龍光寺も鳥居があった。
かつては稲荷社だった。創建の頃から稲荷社と一体だったようだ。
今では御朱印帳なども神仏を混ぜるなと、神社とお寺は別にするのがマナーのようになっているが、神仏習合の頃の民衆の信仰の名残は大好きだ。かつて生きていた人々の祈りが見えるような気がする。
帰りは務田駅まで歩いた。そんなに遠くはない。
今年の夏は暑く、長い。
家並みの影を縫うようにして駅に向かった。
14日目 中村
第40番 観自在寺
観自在寺は市街地のバス通りから少しだけ入ったところにあり、非常に行きやすいお寺だった。
寝ぼけ眼でバスに乗っていたので乗り過ごしたが、1停留所くらい乗り過ごしても市街地ならば大した距離ではない。これが山間部だと下手すると一山越える。
観自在寺は40番なので、お寺の数的には折り返しではないが、総距離だとここが第1番に一番遠いそうだ。
裏打ちでは愛媛最後のお寺になる。
昨日は雲がたまに太陽を隠してくれたが、今日は快晴である。
写真には暑さはにじみ出ず、真っ青な空が爽やかそうに見える。どうやったら写真で臨場感を出せるのか。
昔から写真が下手くそで、うちの性格の悪いインコを撮ってもひたすら可愛くしか写らないんだよな。
本堂は火災で焼失後昭和に再建され、改修もされているのか小綺麗だった。
寺の名は観自在寺だが、ご本尊は薬師如来になる。
観自在とは観世音と同義だ。
サンスクリット語の「観察される神(アヴァロキティーシュヴァラ)」を鳩摩羅什は観世音と訳し、玄奘は観自在と訳した。
観自在寺のご本尊の薬師如来は弘法大師の制作なのだそうで、同時に阿弥陀如来と十一面観音も刻んだそうだ。
薬師如来は病気平癒に力がある。観音菩薩は衆生救済、阿弥陀如来は現世利益だ。みな人々に人気のある仏だが、薬師如来だけ、目の前の病気の苦しみにフォーカスしている。
何か具体的な疫病の流行などがあって、この三尊から薬師如来が特に崇敬を集めるようになったのだろうか。
寺の名からすると、おそらく初めは十一面観音がご本尊だったのではないかと思うのだが。
参拝を終えるとバス停に向かう。
日差しが厳しい。
郵便局前にバス停はあるが、日陰がないのでお向かいで待つことにした。
肌を焦がす暑さに、歩く人は日なたを避けていた。
魅惑の宇和島鯛めし
初めて宇和島鯛めしを食べたのは、道後温泉1日目の夜だ。
とりあえず昼は松山鯛めしを食べたんすよ。
さすが鯛、おいしいね!
次は宇和島鯛めしで食べ比べだ!
これはホテルの近所の居酒屋まつりさん。
え、待って。なんか、次元が違うんだけど。
卵にだし汁に鯛の刺身ってヤバくね!?
卵のコクが鯛と絡み合ってめっちゃうまいな。
内子に行ったときも、どうやら宇和島鯛めしが名物らしい店を見つけて入ってみた。
ヤバ!
居酒屋まつりも美味しかったけど、これもすっごい美味しい。しかも安い。
どうやら夜は料亭なところの食堂部門ランチ編のようだ。
内子の街もそれなりに面白かったが、宇和島鯛めし食べに内子に行っても良いくらいだ。
そして、いよいよ宇和島。
鯛が名物なのは松山も大して変わらないので松山で充分だったのか、それとも本場はやはり違うのか。
期待は募るが、がっかりしないように心構えもしっかりしつつ、宇和島の夜に鯛めしを食べに繰り出した。
宇和島には松山にもお店がある鯛めし屋さんの本店もある。
私が松山鯛めしを食べた店だ。
本店らしく、気合いが入っているようだが、2日あったら行くけど私には1日しかない。
支店に入ったことのあるお店よりも入ったことのないお店を選びたい。
しかし、スーパーフジのお寿司弁当であれだけ違ったのだから、かどやも本店は別次元の可能性はある。実際口コミの評価も高い。
また宇和島に行くときは2泊してかどやさんも行こう。何なら昼にも食べよう。
私が選んだお店はこちら。
鯛めし御膳! 鯛めし御膳!
店構えは小料理屋風の入りやすいお店だ。
先付けに出て来たのはサメらしい。さっぱりとして美味しい。
じゃこ天も美味しい。
そう言えば秋田に行ったとき、タクシーの運ちゃんがうちの知事がすみませんと謝っていた。申し訳なくて運ちゃんもじゃこ天を買ったらしい。
都民の私は何のこっちゃと聞いていたが、秋田県知事がじゃこ天をバカにしたのだって。
じゃこ天はさつま揚げ風だけど、もう少し味が濃くて歯ごたえもしっかりしてて美味しい。
酢飯の代わりにおからが使われているお寿司。
おからとしては美味しいと思うけど、おからなので、おから味だ。
鯛と卵と出汁が別添え!
宇和島鯛めしをこんな風に食べるのは初めてだ。
こういう食べ方でも美味しいの?
てんぷらも来た。
さくさくでからりとしていてこれも美味しかった。
ご飯はお櫃だ。
食べきれるかな?
なんて心配は一切不要だった。
美味しいと胃袋は拡張する。
食べても食べてももっと、となって、気がつくとお櫃のご飯が空になっていた。
お櫃ご飯をクリアしたのは初めてだ。
何が美味しいって、ご飯の炊き方は勿論なんだけど、お出汁と鯛がね、たっぷりあってね、丁度良い味のお出汁、つやつやぷりぷり柔らかい鯛。卵を溶いて混ぜ混ぜしてそれをご飯にかけると、ご飯が鯛と卵の幸せに包まれるんだよ。
何この至福の食べ物。
誰だこれを発明したのは。
この店ヤバいな。旨すぎる。
元は船上で食べられていたらしい。船の上では火が使えないから生だったのね。
かつてはひゅうが飯と言っていたというのが面白い。
海を渡った大分ではりゅうきゅうという魚の漬けがある。
りゅうきゅうは少し甘いので味わいが違うが、案外起源は同じなのかもしれない。
宇和島鯛めしを知って以来、鯛の刺身が手に入ると宇和島鯛めしを作ってみるが、作って誰に食べさせても微妙な顔をされるのだ。
ごめんね、再現できなくて(泣)
本場の宇和島鯛めしは激ウマなんだよ(泣)
一度鯛を漬けにしてみたらそこそこ美味しいものが出来た。誰も食べてくれないので一人で食べた。
そう言えば冷凍の宇和島鯛めしを東京駅隣接のKITTEに売っていた。
あれなら失敗しないかもしれない。
鯛もだけど、出汁も大事な気がする。
宇和島鯛めしの素も買ってみたけど、現地の味にならない。
愛媛では松山の居酒屋で食べてもあんなに美味しかったのに。
結論。
宇和島で食べる宇和島鯛めしは神がかって旨かった。
しかし松山でも充分に美味しいし、内子のりんすけも美味しかった。
これは宇和島鯛めしという料理法が美味しいのだと思う。
だが自分で作ってもうまく再現できない。
食べに行くしかない。
幸い、東京でも宇和島鯛めしを出すお店はあるようだ。
東京と愛媛じゃ魚の質が違うんじゃないの?
と思う人も多いかもしれないが、かつてこんなことがあった。
親睦旅行で熱海に行った。
お刺身がとても美味しかったので、同行の人が仲居さんに、
「このお魚はどこの港に揚がったもの?」
と訊くと、
「築地直送です」
と答えられたのだ。
……。
まあ、東京にも高級な料亭とかあるからね。
最高のお魚を新鮮なまま入れようとする業者の努力は半端ないしね。
でも宇和島現地は多分別格だ。
次回、高知編は11月末の更新予定。