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人はわかりあえる

 電車は、出発地から目的地まできちんと走るから信用がおける。だから電車が大好きだ。
 そう言えば子どもの頃から電車が好きだった。これで親が女の子だからお姫様の本でしょう! と電車の絵本を取り上げなかったら、今頃私は立派な鉄ヲタになっていたかもしれない。
 見よ、イタリアの電車の美しいこと。塗装の色も渋いし、高い位置にあるステップがまた時代がかっていて情緒がある。中は二等車でも六人掛けの個室だ。
 とはいえ、こんなに素晴らしい電車でも、一つ間違えば大変なことになる。
 昔、フランスで、右も左もわからず電車に乗り込んだ時のように。

 初めての海外のドライブを充分以上に堪能した私たちは、トゥール駅からパリに向かう電車を探していた。フランス版新幹線のTGVの本数が少ない頃で、電車を乗り継いで行かなければならなかった。
 フランス人は英語が嫌いである。英語で話しかけようものなら、
「アイ・ドント・アンダースタンド・ユー!」
 と人差し指を突きつけられて怒鳴られる。
 そうは言っても世界共通語となりつつある英語だ。フランスでも対応しないわけにはいかなくなったらしく、英語窓口があった。
 と言っても筆談だが。
 急にフランス人に親しみが湧いてくる。何も、喋れなくても、通じればいいんじゃないか? 私も次から筆談にしようか。無理だな。文章も思い浮かばなかった。
 無事パリまでのチケットと行き方を教わり、ホームを探した。
 最初の行き先は、どこかというと、Cが付く行き先だ。丁度今出発しそうな電車がそれだった。走って飛び乗り、今日一日のことを思い返して笑い合った。
 なんだかんだ、大変だったけど楽しかったよね、なんて、喉元過ぎればなんとやら、である。見れた古城はわずか一つ、ほとんどの時間はただひたすら車でぐるぐる走っていただけだったが。
 車掌の入札が来た。
 フランス語で何か言われたが、フランス語は全員わからない。
 なのに、何故だろう。私たちには車掌が何言っているかわかった(気がした)。
 どうも違う行き先の電車に乗ったらしい。このままじゃパリに着かない。戻るとしても電車がない。一番いいのはこのままトゥールーズまで乗って、そこでTGVをつかまえてパリに向かうことだ。
 わかった! そうする!
 何故通じたのか今でもわからない。
 テンパった私たちは日本語で返事していたし、車掌はフランス語で押し通した。どちらも相手の言葉はわかっていないはずだった。
 だが私たちは無事にパリに着いた。
 言葉というのは不思議だ。お互い知らない言語でも緊急時にはわかりあえるのだ。
 あの後私は大学に行き、第二外国語をフランス語にした。

 しかしTGVに乗れたのはラッキーだった。あの時は行きもなんだかんだで鈍行で行ったので、フランス滞在中乗れないんじゃないかと思ったんだよね。
 今回の旅行で乗りたいのはユーロスターかな。
 向かいの座席でNが寝ている。目的地のボローニャはまだ遠い。
 私はもう少し車窓を堪能しよう。

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