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水底に光るもの

色々議論があるところの海部氏系図だけれど、特に宝賀寿男さんなどは大変批判しておられる。
根拠の1つに丹後国風土記残欠と符合することを挙げておられ、他に見慣れぬ系図にある名などは出鱈目だと仰っているが、その見慣れぬ名を祭神に掲げる神社が舞鶴にある。


豊受女神の恵みたる水

舞鶴の街は2つに分かれている。西舞鶴駅は京丹後鉄道や山陰本線で入る時の入口駅なのだが、東舞鶴駅は若狭方面へ行く電車の発着駅で、それぞれがそれぞれに重要なのに二駅間のアクセスが悪い。
大会待ち時間がかなり発生するので、時間つぶしがてら散歩に出掛けることになる。

西舞鶴駅前に、真名井の清水という水汲み場がある。

真名井と言えば、天照大神と須佐之男が誓約をした水場の名であり、豊受女神が水浴びをして羽衣を隠された水場の名でもある。
大分の国東半島の南の付け根、日出にあり、高千穂峡にあり、磯砂山にもある。
高千穂峡の真名井は天照大神と須佐之男の誓約に因むものだろう。日出はいずれ行ったときに調べようと思う。磯砂山は豊受女神にちなむもので、あちこちにあり、神話にも2つ出て来るからと言って普通名詞なわけではない。
かと言って自由に使えない名でもない。

何の由来だろうとその時は水を持ち帰るだけ持ち帰ってそのままだったのだが、後で知った。

笠水神社

この水は豊受女神に由来する。
近くに笠水神社という神社があるのだ。
豊受女神が降臨した時に甘露なる水を湧かせた。その水を笠水(うけみず)と言い、その水を祀ったのが笠水神社だ。
真名井の清水はこの笠水を引いたものだ。

笠水神社の祭神は豊受女神ではなく、笠水彦・笠水姫で、東殿(小さな社が屋内にある)に伊加里姫が祀られている。
この伊加里姫は海部氏系図によると天村雲命の妃で、またの名を豊水富(とよみほ)と言う。
水を豊かにもたらしたためだ。
豊水富は新撰姓氏録にも記載があり、こちらでは豊御富と書き、倭宿禰の妃となっている。

ここで疑問が出る。
笠水は豊受女神の降臨の時に涌いたものではなかったのか?
だから『ウケ』ミズなのではないのか。
何故伊加里姫となっているのか。

丹後国風土記残欠

笠水神社については、丹後国風土記残欠という資料に記載がある。1927年に公表された、未発見だった丹後国風土記の逸文なのだが、実は偽書の疑いが濃厚なものなのだ。

写本の作成者は籠神社別当の寺の僧侶で、15世紀末のもの、らしい。
これが籠神社に保存されたものであれば系図丸ごと籠神社の創作と言えるのだが、保存されていたのが京都白川家というのでこれまた話が複雑だ。

まるごと出鱈目として、勘注系図も嘘だと断言できたらいいのだけど、それにしては笠水神社と伊加里姫の謎が残る。
また作られた時代は相当に古く、その時代に創作されたものにしても、その時代まで伝わっていた伝承等が反映されている可能性もあるのだ。

白雲別の娘、豊御富

笠水神社は白雲山の北にある、と丹後国風土記残欠に語られるが、この笠水神社の祭神、伊加里姫または豊水富(豊御富)は白雲別の娘として、奈良にも祀られる。
それが長尾神社だ。

長尾神社は三輪山の西にある。三輪山を大蛇の頭とし、長尾神社をその尾とする。長尾とは大蛇の長い尾の意味だ。

神武天皇が東征で紀伊の山を越えたとき、山中の井に長い尾のある光る人がいた。
名を問うと、白雲別の娘豊御富と答えた。
そこで神武天皇は水光(みひか)姫の名を与えた。
水光姫は記紀に言う井氷鹿だ。伊加里姫の名も、水光(みひかり)が転訛したものだろう。

長尾神社には、三輪山の神の妃が祀られているという伝承もある。
長尾神社の祭神は、天照大神と豊受女神だが、社伝によると水光姫とその父白雲別となっている。
三輪山の神は大物主だ。
大物主の妃は倭迹迹日百襲姫で、箸墓に眠ると言う伝説のある巫女姫だ。また、邪馬台国畿内説では倭迹迹日百襲姫は卑弥呼に比定される。
ただし箸墓の築造年代は卑弥呼の世代より一世代下る。

世代的には次の女王台与がはまる。
だが全ては後の世の伝承で、何一つ裏付けるものがない。
倭迹迹日百襲姫の墓であるなら、天皇家の祖先の墓となるため、宮内庁により陵墓指定を受けて発掘が出来ないのだ。

水底に光るものは

吉野には丹生川上神社があり、水銀を連想させる。
歴史の中で吉野から水銀が出た記録はないのだが、水銀は浅いところに産出しすぐに採り尽くすため、記録のある時代にはなくなってしまっていた可能性がある。
神武天皇が水光姫に出会った場所は丹生川上神社上社のある吉野川上流から井光川に入り遡っていったところだ。
古代の道は川筋にある。
丹生とは水銀の産出に関わる名だ。
丹生川上神社自体が神武天皇の創建という伝説を持つ。

井戸の中に光る姫は、水銀に関わる姫なのだ。

水銀は不老不死の象徴でもある。

吉野川を下っていくと、紀ノ川に合流する。
この紀ノ川の流域にも水銀に関わる姫が祀られている。
丹生都比売神社だ。

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