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ジオリッティ

 ローマの食は、ヴェネツィア・ボローニャ・ナポリなどと比べれば地味なのだが、カルボナーラやカプリチョーザはローマ発祥である。
 もちろんその二つは忘れることなく履修した。
 カプリチョーザはいわゆるミックスピザである。ラ・カプリチョーザという店が発祥だ。お昼に行くとピザは夜にしか提供していないと言うことで、カルボナーラを食べるしかなかったが。夜に食べたカプリチョーザピザはナポリで超絶うまいピザを食べた後のせいか、そこまで感動しなかったのがやや悲しかった。
 ナポリ、あの街は酷い思い出ばかりが残っているがピザは素晴らしい。もしピザが超絶好きで、命をかける価値があると信じるならば行く価値があると思う。日本ではクリスピーが好きな私だがナポリのもちもちピザにはぞっこんになった。
 カルボナーラは日本でよく提供されるものと違って、生クリームが入らない。卵とチーズのみで作られたソースをベーコン入りのパスタに絡め、仕上げに黒胡椒を振ったものが本場ローマのカルボナーラである。
 イタリア人の性格が大雑把なためなのか、卵の火の通し方に衛生上の縛りがあるのかわからないが、時々炒り玉子パスタになるのが難点である。
 そんなローマの数々のグルメのうち、私が一推しなのはジェラートだ。特にジオリッティというお店だ。
 だがどうしてだろう。どれだけおいしいかという言葉が思いつかない。
 フルーティー、ミルキー、くちどけなめらか、コクがある、どんな言葉もジオリッティのジェラートを形容するのに十分とは言えない。
 日本にもおいしいジェラート屋はあるし、そこと比べてどれだけおいしかったかと言うと、例えば鎌倉のイル・ブリガンデ。あれと比べてどれだけおいしかったかというと、無理だ。ぶっちゃけイル・ブリガンデは神である。至高、唯一無二。あれはジェラートという食べ物ではなくイル・ブリガンデというジャンルの冷たい何かだ。そこと比べるのは土台無理だった。だかそれ以外の大概の店よりはおいしいことだけは間違いない。
 ちなみにローマはその後何回も行っているが、その度にジオリッティでジェラートを食べる。
「コン・パンナ!(生クリームのせて)」
 と言うと生クリームをのせてくれる。
 冷たいジェラートの上に生クリームは、温度が違っておいしくなさそうだが、これが不思議と合うのだ。
 生クリームはサービスだ。サービスなのでチップが必要になる。いつも混雑していて店の中は冬でも暑い。
 店の外に出ると冷たい風が頬を撫でた。
 ジェラートを舐めながらふと見上げると、そこにはパンテオンがある。
 昔の神殿を教会に作り替えたもので、神殿の時代は一つの神の神殿でなくあらゆる神を祀った。それでパンテオン――日本語で汎神殿と言うのだ。
 ローマの街はこんな風に突然に古代ローマが現れる。その独特な雰囲気も舌を喜ばせるのかもしれない。
 ローマの思い出は私の中ではいつもジオリッティのジェラートと結びついている。

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