魏志倭人伝の人々
年内の阿加流姫シリーズの投稿が今日を入れて残二回なので、ここで、今までのまとめとして魏志倭人伝の人物が誰なのか比定してみる。
魏志倭人伝と記紀がつながるならば、大和朝廷の歴史の中に魏志倭人伝の人々が顔を出しているかもしれない。
卑弥呼
其國本亦以男子爲王住七八十年倭國亂相攻伐歴年乃共立一女子爲王名曰卑彌呼事鬼道能惑衆年已長大無夫壻有男弟佐治國
記紀から探せば天照大神で良いと思う。
呼び名は大日女（おおひるめ）だ。
難升米
景初二年六月倭女王遣大夫難升米等詣郡求詣天子朝獻太守劉夏遣吏將送詣京都
素直に読んで、なしおみではないか。
中臣氏の系図に出てくる天女の息子梨迹臣で良いと思う。息子の神聞勝は崇神天皇に仕えた。
都市牛利
其年十二月詔書報倭女王曰制詔親魏倭王卑彌呼帶方太守劉夏遣使送汝大夫難升米次使都市牛利奉汝所獻男生口四人女生口六人
こちらも素直に読んでつしごりで良いと思う。
出石心、建由碁理ではないか。
開化天皇の時代の人物だ。
載斯烏越
倭女王卑彌呼與狗奴國男王卑彌弓呼素不和遣倭載斯烏越等詣郡説相攻撃状
烏越はおえち、おえつ、うえつ、どれでもよいと思うが、この発音の人物もいる。
小市だ。
大三島の大山祇神社を建てた人物で、倭迹迹日百襲姫の異母弟になる。
畿内説で卑弥呼に比定される倭迹迹日百襲姫は、単に同時代に似た人がいたために充てられただけ、と思いたい九州説の私だが、調べれば調べるほど倭迹迹日百襲姫が卑弥呼に重なってきて困った。孝霊天皇の子どもたちはそのまま卑弥呼の家族を表しているかもしれない。何故そんなことになっているのかはわからないけれど。
そうすると、国を治めていた男弟は吉備津彦なのかもしれない。
吉備攻めは須佐之男とも重なるため断定はできないが。
掖邪狗・伊聲耆
其四年倭王復遣使大夫伊聲耆掖邪狗等八人上獻生口
伊聲耆はいせし。心当たりのある人物が一人いる。
垂仁天皇だ。
和名を、活目入彦五十狭茅という。いくめいりひこいさちと読む。
活目が邪馬台国の最高官の官名伊支馬に重なる。
掖邪狗は今のところ見つけていない。
壹與
復立卑彌呼宗女壹與年十三爲王國中遂定
邪馬台国か邪馬壱国か、古田武彦の本を本を読んだときには、邪馬台国ではなく邪馬壱国ではないかと思い、台与ではなく壱与だろうと思ったのだが、壱ではなく台の可能性の方が高い。
12世紀のものが最古の写本になるのだが、三国志が書かれた時代から1000年も経っている。そこまで信頼性の高いものではないのだ。そもそも戦乱の中国、残されている写本が少なかった。
三国志は本書の写本のほかにも引用が残されている。そちらでは台（臺）の字が使われているし、別の字を当てる時も「タイ」の音を持つ漢字が充てられている。
そういうわけで、邪馬台国だし、台与なのだ。
台与だとすれば豊受大神、豊鍬入姫、万幡豊秋津師姫（栲幡千千姫）などが充てられているが、全部台与かもしれないね！ というのがこの阿加流姫シリーズで解いてきたことだった。
冬至の日に古代から天皇家では新嘗祭という豊作を祝う神事が行われる。
神事は前の晩から始まる。
鎮魂祭という、おそらく天岩戸を再現した神事に、阿知女という神楽歌が歌われる。
天地に 来ゆらかすは 去ゆらかす 神わがも 神こそは きねきこう きゆらならば
石上布留の社の 太刀もがも 願ふその児にその奉る
猟夫らが 持有木の真弓 奥山に御狩すらしも 弓の珥見ゆ
登り坐す 豊日孁が 御魂欲す 元は金矛 末は木矛
三輪山に 在り立てる ちかさを 今栄えでは いつか栄えむ
吾妹子が 穴師の山の 山のもと 人を見るかに 深山縵せよ
魂筥に 木綿とりしでて たまちとらせよ 御魂上り 魂上りましし 神は 今ぞ来ませる
御魂上り 去坐し神は 今ぞ来ませる 魂筥 持ちて 去りたる御魂 魂返しすなや
阿知女は安曇磯良のことだそうだ。
穴師の山という言葉が出てくるが穴師の山は、垂仁天皇と景行天皇の宮が中腹にある纏向の山で、山の上には兵主神社があり、兵主の神が祀られている。配祀されているのは稲田姫と豊受大神で、天照大神の写しの鏡一面と、日矛がご神体だという。
天照大神の写しの鏡は三面あり、一面は宮中に、一面は紀氏の日前神宮に祀られている。最後の一面が兵主神社にある。
日前神宮は国懸神宮と並んでおり、国懸神宮に祀られるのは日矛鏡だ。
兵主神は大国主命だという。
石上布留の社は石上神宮のことで、太刀は布都御魂だろう。
豊日孁は大日孁貴のこととされるが、豊受大神ではないだろうか。
大日女、稚日女、豊日女と受け継がれるはずだった巫女王の座だ。
稚日女が大日女より先に亡くなったため、大日女から豊日女に受け継がれた。
豊日女の時代に奈良を都とした王朝が築かれ、その王朝が全国を統一したために、豊日女の神話があちこちに残っている。
そういうことなのではないだろうか。
国記・天皇記
台与が後の世のいつまで伝わっていたか、というのは実は推測できる。
飛鳥時代前後の天皇の和風諡号を見ると、以下のようになっている。
欽明天皇 天国排開広庭
敏達天皇 渟中倉太珠敷
用明天皇 橘豊日
崇峻天皇 泊瀬部
推古天皇 豊御食炊屋姫
舒明天皇 息長足日広額
皇極天皇 天豊財重日足姫
孝徳天皇 天万豊日
斉明天皇 皇極重祚
天智天皇 天命開別
崇峻天皇を除いて、用明天皇から斉明天皇まで、豊や息長、炊屋など、阿加流姫関係の名前が並んでいる。
崇峻天皇は馬子に暗殺された天皇だ。
推古天皇の時代、聖徳太子と蘇我馬子は国記・天皇記という史書を編纂した。
この歴史書による復古主義で、初代天皇に纏わる名が天皇の諡号として好まれたのではないだろうか。
天智天皇以降に豊ブームは終わる。
天智天皇は百済救済のために朝鮮半島に出兵し敗れた。百済は滅亡し、新羅が敵国となった。
蘇我氏の時代は新羅とも友好関係を結んでいた。なお、蘇我氏の時代は蝦夷とも友好だった。
新羅との関係悪化に伴い、新羅の朴氏始祖王の娘、昔氏始祖王の妹、金氏始祖王の妻である台与が、大和の始祖王であることは都合が悪かったのではないか。
これを秘したために、記紀は奇妙に歪み、信頼ならないものになってしまったのではないだろうか。