わかり合える《趣味》もいいけれど☆秘密の《趣味》もいいのかな---と。ギターはここに置いて貰えますか?私の【秘密基地】だから◇闇夢さん☆〈カフェ49闇夢2〉
カランカラーン。
ドアが開いて入って来る風が涼しい。
それでもまだ微かにエアコンは冷房。
それでも、ドアから入る風は秋を告げている。
「こんにちは、ママさん」
久しぶりに入って来たのは闇夢( あんむ )さんだった。
「いらっしゃい。闇夢さん」
「今日は休みなんですよ。ちょっとギターを持って来てしまいました」
---本当だ。
闇夢さんは、ジーンズにまだ半袖の黒いTシャツというラフな格好に、大きなギターケースを持っていた。
「あら。とりあえず座って下さい」
私がそう言うと、闇夢さんはカウンターの右側の椅子に座った。そして、ギターは椅子の横に立て掛けて。
「あの、ギター、ですよね。そこで大丈夫ですか?」
私はちょっと心配になって聞いた。
「大丈夫ですよ。なかなか来れなくてすみません」
「いえいえ。そんな、ありがとうございます。嬉しいですよ」
そう言って、おしぼりと水の入ったグラスを出していると、闇夢さんが棚を見ていた。
前に来た時に、気に入ったホストの〈雪冬矢〉君に真似て好きな淡い緑色の店のコーヒーカップに、若かった頃にやっていたバンドの名前と一緒にその時の名前【闇夢】という名前を書いてマイカップにしていたのだ。
《Dark♧dream 闇夢》
「うふふ。闇夢さんのカップに入れますね」
私はそう言うと。
「あれっ、ママさん。やられたなぁ」
「えっ!」
闇夢さんが突然言った。
「あれだよ、あれ。5000円札。あれ、冬矢君だよね」
あぁ、確かに。
闇夢さんが、気に入った冬矢君にコーヒーをと《雪冬矢》君のマイカップの後ろに立てて置いて行った5000円札。
そして、その横にあった《闇夢》さんのマイカップの後ろにも立て掛けてある5000円札。
「あ、あれね。そうなんですよね。先日冬矢君来てね。彼、ホストでNo.1になって忙しくなったみたいで、本当に久しぶりにコーヒー飲みに来て、闇夢さんの事も話したんだけど---」
そう私が言うと
「アハハ。彼らしいよな。そう思ったよ。No.1かぁ。やっぱり彼はただ者じゃないとは思っていたけどね。もしかして、逆に私に---って感じかな?。ママが話したなら」
そう言いながらも、嬉しそうな闇夢さん。
「そうです。闇夢さんにもコーヒーをって。とりあえずコーヒー入れますね」
そう言って私はコーヒーの準備をしていた。
「同じ5000円札かぁ。彼、冬矢君らしいよな」
そう小さな声で言う闇夢さん。
すると、
「ねぇ、ママさん。このギター、お店に置いて行ってもいいかなぁ」
そう言った。
私は、闇夢さんのマイカップにコーヒーを入れて、カウンターに淡い緑色のコースターを置いて、その上にカップを置いた。
「ギターを?。私は構いませんが高価な物でしょ。ちょっと心配ですよ」
「それは大丈夫ですよ。ギターは何本か持ってますし、これは万が一盗まれても大丈夫な物だから」
「えっ、まさか」
私が驚くと
「冗談ですよ。でも、本当にそうなってもママさんに御迷惑は掛けませんから」
そう言った。
闇夢さんは、置いたマイカップでコーヒーを一口。
「あぁ、美味しい」
「私は、構いませんが、またどうして」
それでも、突然だっから聞いてみた。
「実はママさんに言われて、あれからしまっておいた私の好きだったギターを出して弾いてみたり、眺めて見たんですよ。息子に実は父親はギター弾くんだよとか、お前と同じくバンドやってたんだよとか言おうかなと思ったりもしたんだけど、でも、ちょっと冷静になったら、今更なんてとも思ってね。でもそれでも誰かにはわかって貰いたいかなぁって。それで、ママさんに可能なら聞いて貰いたいし、ここに置いてあるって事で秘密基地みたいで、何かワクワクするんですよ」
そう嬉しそうに話す闇夢さん。
何となくわかる気もする。
確かに、バンドがしたいと出て行った息子さんに実は父親もバンドをやっていたと自分の若かった頃の話も、時には理解して貰って良くなる事もある。たぶん、実は---でわかり合うのかもしれない。
だけど、だけど、やっぱり自分の中だけにしまっておきたい時もあるのかもしれない。
「そうなんですか。そうですね。話すのはいつでも出来ますからね。ギター弾きますか?」
私はそう言った。
「いいんですか?」
「聞きたいです。私の方こそいいんですか?お願いします。お客さんが他に居ないのが残念ですが」
すると
「他のお客さんの前では弾けませんよ。ありがとうございます」
そう言うと、ギターケースからギターを出して闇夢さんはテーブル席に行ってそこの椅子に座って弾き始めた。
私はギターは知ってるけど、詳しくはわからない。でも確かに〈生〉で聞くと音色が美しい。
---あ。《禁じられた遊び》だ。
何だか懐かしい。
そして、2〜3曲弾いてくれた。
パチパチパチ
思わず拍手をしていた。
「素敵、素敵。ありがとうございます」
「殆ど弾いてなかったから、まだまだですが」
「いえいえ。素晴らしいです」
嬉しそうな闇夢さん。またカウンターに戻って来てギターをしまってカウンターの椅子に座った。
「場所も最高ですね。この場所。やっぱり秘密基地です」
「バッチリですね。また弾いて下さいね。お客さんも聞きたいと思いますよ」
「そう言って貰えると嬉しいです」
嬉しそうな闇夢さんだけど、私の方がもっと嬉しかった。
それから、ゆっくりコーヒーを飲んで、冬矢君の話しもしながら時間は過ぎた。
そして、闇夢さんはギターを私に預けて、嬉しそうに帰って行った。
---秘密基地かぁ。
何だか本当に懐かしい響きだった。
特に男性は〈秘密基地〉とかに憧れたよね。
ギターさえも秘密にして。
そのうち、息子さんには話すんだろうな。
でも、まだ言えない気持ちもわかるような気もする。
私は、本当はお店に飾りたかったけど、とりあえずカウンターの前の棚の下辺りに置いた。
カウンター席からは見える場所に。
ギターかぁ。
格好いいよね。やっぱり。
また、弾いて貰いたいなぁ。
なんて、凄く嬉しくなった。
男性は《ロマン》があるよね。
うふふ。
これから、寒い冬がやって来る。
その前に、綺麗な紅葉かな。
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