80歳の圭子さん♡《ママさん、寒いですね。大丈夫ですか?》圭子さんこそ、大丈夫ですか?《冬ですからね》···ですね♡〈カフェ80圭子7〉
カラン、カラーン。
静かに入って来たのは圭子さん。
年が明けて初めて来てくれた。
「ママさん、遅くなりましたが、あけましておめでとうございます」
なんだか、もこもこ着込んでいる圭子さん。
ベージュのダウンコートなんだけど、なんだか、もこもこしている感。
圭子さんがダウンコートを脱ぐと、あらあら毛糸の可愛いグレーのもこもこセーター。
「圭子さん、いらっしゃい。あけましておめでとうございます。可愛いセーターですね」
私が言うと、
「うふふ。娘が編んでくれたんですよ」
そう、嬉しそうに言って、いつものテーブル席に行って慣れた感じでダウンコートを籠に入れ座った。
私は、いつものようにおしぼりとお水の入ったグラスを持って行った。
「ママさん、寒いですね。大丈夫ですか?」
私は、そんな事を言う圭子さんに、
「大丈夫ですよ。圭子さんこそ、大丈夫ですか?」
そう言った。
すると、圭子さんが
「実は、私は寒がりでね、これね、娘が編んでくれたんですよ」
そう嬉しそうに言った。確かに、かなりもこもこのセーター。
人は、自分の事を思い相手に聞くことがある。
《大丈夫ですか?》という場合、本当は《自分がちょっと大丈夫じゃない時》とかにね。
「暖かそうですね。本当に」
「はい、温かいですよ。寒がりの私を知ってるから、モコモコでしょ」
確かに、素晴らしくもこもこ。
「暖かそうで、羨ましいですよ。優しい娘さんですね」
そう言うと
「うふふ」と笑った。
「今日はカップどうしましょうか」
特に、決まったコーヒーカップが無い圭子さんに聞いた。
「そうですね。今日は、紫色にしましょうかね」
そう言って、またニコッと笑った。
「わかりました。紫色ですね」
「はいはい、もちろんママさんの分もね」
私は、にっこり笑って、淡い紫色のコーヒーカップを2個持って、圭子さんのテーブルに行って向かいに座った。
「あら、ママさんも紫色ですか」
「はい」
なんだか嬉しそうに微笑む圭子さん。
「寒いですね」
「はい、冬ですからね。寒いのは当たり前なんですが、寒いですね」
そう言う、本当に可愛い圭子さん。
「ですね。寒いのは当たり前ですね」
「でも、春が来るんですよ。凄いですよね。ちゃんと春が来るんですから。後、何回、あの桜を見られるのかわからない歳になりました。桜の花が、あんなに綺麗だとは、そう思ったのは最近かもしれないです」
そう言う圭子さんの言葉が、とても重く感じた。
「私もですよ、圭子さん。当たり前の事が、段々、本当に有り難く感謝するような感じになって来ましたよ。不思議ですよね」
私がそう言うと、
「ママさんも、歳をとりましたか。みんな歳をとりますからね。うふふ」
「はい、とりました。一緒ですよ」
「じゃぁ、新しい年に乾杯しましょうか」
ニコッと笑う圭子さん。
淡い紫色のコーヒーカップで、乾杯。
優しい時間。
まだまだ、桜を見ていて欲しい。
そう思った。
まだまだ、何回も。
そう思う私も、後、何回見れるだろうか。
もし寿命が80歳としたら、80回しか桜を見れないのか、80回も桜を見れるのか。
圭子さんの、もこもこのセーターを見ながら思った。
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