俺がここに居てもいいのかなぁ?優しいホスト《雪❅冬矢》君 〈カフェ10 冬矢2前〉
カランカラーン。
「ちわーっす。ママ」
入って来たのは、あのホスト〈雪冬矢〉君だった。初めて来た日から少し日が過ぎていた。
「あら、いらっしゃいホスト君。っていうか、さっき窓からチラッと覗いた?」
私が聞くと
「あっ!、バレた?。覗いた覗いた。ってか俺、冬矢君」
また、頭から靴の先まで真っ白。
「別に覗かなくてもいいのに。ビックリするわよ暗い中から真っ白い物体が覗いたら」
私が言うと
「真っ白い物体は無いよママ。いやぁ。何かさ冷静に考えたら俺みたいな派手なヤツが来て、ママさんに迷惑かけないかなぁ --- なんて思っちゃってさ。ちょっとチラチラ見てたりしてたんだ。だけど来たけど。アハハ」
冬矢君は、また真っ白いコートとニット帽を私に預け、やっぱりカウンターの真ん中に座った。もしかしたら冬矢君はお客さんが居ないか覗いていたのだろうか。居たら遠慮して店に入るのはやめようと。
「何を言ってるの。私とホスト君は同じ日に仕事を始めた新人仲間。同志でしょ」
私が言うと
「仲間、同志?。ぉ!何かいい響き。だけどさ、カフェって何かこう静かにコーヒーを飲むって場所じゃん」
「そうよ。ホスト君は別にうるさくしてないじゃない」
「そうじゃなくてさぁ。何て言うか ---」
冬矢君が何を言いたいのかは、わかっていた。
「イメージ?」
私が聞くと
「ぅーん、何て言うかなぁ」
冬矢君ははっきりとは言わなかった。
「意外に人は他人を気にしてないし、自分が気にしているほど気にもされてないものよ。私の事を気にして言ってくれたのなら本当に嬉しい。でも、じゃぁ私の大切なホスト君が、来なくなったり余計な心配して悩んでたら私は淋しいし辛くなるわ。ホスト君が、ここが居心地悪くなってしまったのならそれは仕方ないけどね」
私は、おしぼりと水の入ったグラスを置いた。すると冬矢君はふっと私を見た。
「優しいのねホスト君は。だけど、それは勘違いの優しさよ。もし誰か入って来てホスト君を見て嫌だなとかここには不似合いな人だなぁとか思っても、ここに居たければ入って来るし、それでももし違和感があるなら離れた場所に座る。そして嫌なら帰ってしまう事もあるかもしれない。それだけの事。だけどそれはホスト君のせいじゃ無いのよ。誰でもあり得るのよ」
冬矢君は黙って聞いていた。
「そりゃ暴れたり人に迷惑かける人は別として、それでも人は外見やイメージで人を見る時がある。私もあるわ。だけど、人を外見やイメージだけで見ると本当に勿体無いのよ。意外に素晴らしい人や凄い人もいるからね。うふふ。ホスト君だって本当に優しいし ---」
「優しくないかもよ。俺」
ぼそっと小さい声で冬矢君は言った。
「それでも人は、何かされてもいないし初めて逢ったのに馬が合わないというか、駄目な人もいるのよ。それは本人自身にもわからない。相手が悪い訳でもなく、もちろん自分自身が悪い訳でもないのよ。仕方のない感情なのかもしれないわよね。更には、同じこの店のお客さんの中でも多分、お客さんが何回来ても一度も逢わないお客さんもいるのよ。かと思えば、例えば月に2回同じ曜日、同じ時間にたまたま来て顔が合えば --- あの人常連さん?となる。3回合ったら常連さんだと更に思うのよ。その人が来るといつも居るから。3回しかお互い来てないのにね。人の感じ方って面白いのよ」
何か微かに頷きながら冬矢君は水を飲んだ。
「それが、タイミングや縁かな。とりあえずホスト君は、私の大切なお客さん、仲間、ぅ〜ん家族なんだから、変な事考えない言わない、私は今のホスト君が格好いいし好きよ。わかった?」
そう言うと、冬矢君は私を見てニヤッと笑った。
「ママ、コーヒーまだかなぁ」
「ぇ!あっ!。ごめんなさい。また話に夢中になって」
私は慌ててコーヒーの準備をした。
「ママさぁ、俺、冬矢君。ホスト君じゃないって。じゃぁさ、この席俺の指定席でいいかなぁ。ここに誰も座ってなかったらだけどな」
冬矢君はやっといつものように笑った。
「はいはい」
私は、コーヒーの準備をしながら嬉しかった。冬矢君はわかってくれた。これ以上私が冬矢君を心配して話したら私自身を悩ませてしまう事になる事を。
「ごめん。俺、ここが好きだから」
わかってる。好きだから余計いろいろ心配してくれた事を。本当に優しいんだなって思った。だけど、ホストという仕事をする中で、その考えすぎる優しさがちょっと心配になった。
「あっ!、冬矢君。真っ白いコーヒーカップは?」
そうだ。冬矢君は真っ白いコーヒーカップを持って来ると言ってたのを思い出した。
「ぉ!、やっと冬矢君って呼んでくれたな」
確かに、私は気分で冬矢君を冬矢君とかホスト君とか呼んでる事に自分自身笑ってしまった。多分またホスト君とも呼ぶだろうけど。うふふ。
「そうそう。ママ聞いてくれよ。真っ白いコーヒーカップ。俺、窃盗屋(雪❅冬矢〈ゆきとうや〉)君が窃盗にあったんだよ」
「えっ!、はぁ?」
--- 窃盗屋君が窃盗にあった?。
「聞いてくれよ、ママ」
「聞いているわよ。あ、コーヒー。じゃぁ」
そう言って私は、とっさに淡い紫色のカップに注いだ。
「えっ!、それ俺の?。何色がいいか聞いてくれないの?」
「あ、ついつい習慣で」
「いいよいいよ。俺、紫も好きだから」
--- ぅぷ。
思わず吹き出してしまった。
うふふ。面白い子。優しい子。
「本当に優しいのね」
「優しくねぇよ」
冬矢君は、可愛く照れながら淡い紫色のコーヒーカップを口に運んだ。
「でさぁ --- 」
カップを淡い黄色いコースターの上に置いて話し始めた。
🌹続く🌹
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🌈☕いらっしゃいませ☕🌈コーヒーだけですが、ゆっくりして行って下さいね☘️☕🌈