俺【No.1】になったよ✩新人ホストだった《雪❅冬矢》君。花束に込めた思い【後編】〈カフェ35冬矢5後〉
私がカウンターに飾ってあった、冬矢君に渡そうとした真っ白い薔薇の花束はずっしり重く感じた。
私は振り返り冬矢君を改めて見て、
「冬矢君、改めて【No.1】本当におめでとう。きっと来てくれるような気がして用意していたの。これ、私からの気持ち」
そう言って真っ白い薔薇の花束を冬矢君に渡した。
真っ白い薔薇の花束にゴールドのリボンがまた冬矢君には似合っている。
「マジか。ありがとう。ママ。凄いな。嬉しいよ。本当に。俺が1番になった事ママ知ってたんだ」
冬矢君は、嬉しそうにそして不思議そうに言った。
「実は、最近姿が見えないから、ちょっと駅ビルに行く途中で思い出して冬矢君のお店を探してみたのよ。そしたら、2回目に見た時に冬矢君がNo.1になっていたから。ビックリと言うか嬉しくてね。そのまま駅ビルの花屋さんに向かっちゃったのよ」
私はニコッと笑った。
「そうだったんだ。ありがとうママ。心配してくれたんだ。本当にちょっと忙しくて来れなくてごめんね」
「いいのよ、いいのよ。違う違う。冬矢君が謝る事じゃなくて。嬉しかったのよ。本当に」
私がそう言うと
「あぁ。わかってるよ。俺もめちゃめちゃ嬉しいよ。本当にママのお陰だから」
そう言って冬矢君は私が渡した真っ白い薔薇の花束を見つめた。
「真っ白い薔薇は、俺も大好きだよ。このゴールドのリボン、ヤバいね。俺にピッタリ。ありがとうママ。最高に嬉しいよ」
そう言ったと思ったら。
「ねぇ、ママ。ところでちょっと気になったんだけど、この花束、駅ビルで買ったって言ったよね?。何かこの真っ白い薔薇が俺のと似てるからさぁ。もしかして同じ花屋さん?。---ん?。だからかなぁ」
冬矢君は、そう言って不思議そうにまた花束を見つめた。
「そう、駅ビルの1階の花屋さん。同じ花屋さんかもね。実は、あの花屋さんにお客さんがバイトしてるのよ。それでね、冬矢君の好きな真っ白い薔薇の花を選んで貰ったのよ」
私がそう言うと、なんだか冬矢君は納得したような顔をした。
「なるほど。だからかぁ」
「---?」
「実は、これ買いに行った時に花屋さんの女の子が不思議そうな顔をしたり、何かクスクス笑ったりしていたんだよね」
「買うときに何て言ったの?」
「お世話になってるお店のママにって」
私は思わず納得して笑ってしまった。
「私もね、ホストの男の子、お店のお客さんにって言って昨日買ったから。たぶん冬矢君は私の後に買ったのね」
「あぁ。なるほど。グッドタイミングって訳か。まして同じ真っ白い薔薇の花束だもんな。確かに、あの女の子の態度は納得だな。ママの花束の相手が俺だってわかったのかなぁ?。アハハ」
そう言って冬矢君は、その真っ白い薔薇の花束を見て笑った。そして、また思い出したかのように言った。
「あれっ、さっきママ、花屋さんの女の子、バイトしてるお客さんって言ったよね」
やっと気づいたかな?と私は思った。
「うふふ。気づいた?。あの女の子、咲希ちゃんていうのよ。言ったっけ?。冬矢君がこの店で気にしていた女の子」
私は、クスクス笑ってしまった。
冬矢君はちょっと思い出しながら。
「おぅ。あぁ。そっかぁ。だよな。うん。何か見た事あったような?変な感じはあったんだよなぁ。あぁ。あの女の子かぁ」
冬矢君は、何だか嬉しそうに納得していた。
「冬矢君、お花買う時は咲希ちゃんから買ってあげてね」
何て、私は思わず余計な事を言っていた。
「おぅ、了解」
そう何だか軽く言う冬矢君。更に可笑しくなって笑ってしまった。
すると、冬矢君はやたら時間を気にし始めて言った。
「ごめん、実はママ。今日もまたゆっくり出来ないんだ。これから俺の【No.1】になったパーティーなんだよ。行かなきゃ。本当にごめん」
--- そうなんだ。冬矢君は、忙しい中【No.1】になったパーティーの日に1番に来てくれたんだ。ここに。
「いいのよ。いいのよ。来てくれただけでも。本当にありがとう。本当に嬉しかったから。遅れないように行って」
私はそう言って思いきり微笑んだ。
「あぁ。ママ、本当にありがとう。この花束、パーティーのテーブルの真ん中に飾るよ。ママ。また必ず来るからね。いっぱい話したい事もあるし。必ず来るからさ」
冬矢君はそう言って、私のプレゼントの真っ白い薔薇の花束を抱えてちょっと慌てて自分の店に向かった。
私は、ただただ見送るだけだったけれど、初めて来てくれたあの時と同じ真っ白い格好で来てくれた事。本当に立派になった姿が我が子のように思えて本当に嬉しかった。
私は、冬矢君が見えなくなるまで見送っていた。冬矢君は、振り返る事もなくお店に足早に向かって行った。
あの真っ白いスーツ。流石にコートは着ていなかったけれど、あのスーツも、もう暑いだろうなぁ、なんて思いながら。
私は、冬矢君が見えなくなると、ふっと微笑んで店に入った。
カウンターに置かれた真っ白い薔薇の花束。
リボンがゴールドからラベンダーアメジストのような色に変わった真っ白い薔薇の花束。
何となく優しい感じになったかな。
私はまた店のカウンターに飾った。
---【No.1】なんだ。
いつかまた、ゆっくり話せる日が来たらいいなぁ。なんて思いながら。
親が子を旅立たせる時って、こんな感じなんだよね。うふふ。
お客さんは、居なかった。
私は少し、カウンターに座ってぼーっとしていた。棚に冬矢君のサイン入りのコーヒーカップが見える。その横には、ギターをひく闇夢さんのやっぱりサイン入りのコーヒーカップが見える。冬矢君にコーヒーをと置いて行った五千円札が見える。
--- そうだ。冬矢君を気にしていた闇夢さんの事や、冬矢君にはまだまだいろいろたくさん話す事がある。話さなきゃいけない事がある。
何だか立派になって忙しくなった冬矢君。嬉しいんだけど、何かちょっと寂しい思いもよぎりながら思った。
また、ゆっくり話せる日が来る事を楽しみに。
ふふっと、私はまた静かに笑った。
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