![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/35049341/rectangle_large_type_2_0576492aea1eebd6167f978b28e2be6e.png?width=1200)
カランカラーン。80歳♡圭子さんの娘さんがふらっと来てくれた。ゆっくり話せなかった。余計な事や心配って---〈カフェ47圭4♡娘〉
カランカラーン。
暑い夏だった。
というより雨が多かった。
また暑い日は残るけれど、秋の気配は確かに感じる。
お店を開店して月日が過ぎたけれど、不思議と男性客が多かったのが印象的だ。
どちらかと言うと、女性客の方が多いのかと思っていたから。
やはり一人で来るお客さんが多く、やはり男性が多かった。
イメージ的には、カフェと言ったら女性という思いは砕かれた。
店のドアが開いて入って来たのは、50歳前後の女性だった。やはり、窓のあるテーブル席に向かう。
「いらっしゃいませ」
そう言うと女性は、ペコリと頭を下げた。
---ん?。
その女性はゆっくり席に座ると、私を見てまたペコリと頭を下げた。
---ん?。
私は、おしぼりと水の入ったグラスを持って行った。すると、
「いつも、母がお世話になっています」
女性はそう言った。
--- 母?。あっ。もしかして。
「あの、違ったらごめんなさい。もしかしたら、圭子さんの?」
私がそう言うと
「はい。母から良く聞かされてました。一度来たいなって」
--- えっ。あれっ、えっ。
何だか嬉しいような、だけどちょっと嫌な予感がした。手術もしたと言っていたし。
「あの」
ちょっと不安そうに聞くと、
「あっ。あ、いえ。母に何かあったとかじゃないんです。ちょっと内緒で来てみたかったんです。ビックリさせてしまって、すみません」
--- あぁ。
確かに、ビックリした。
「あ、ちょっとビックリしました。良かった。でも、本当にありがとうございます、いらっしゃいませ」
私は、ニッコリ笑った。
「母から聞いてます。コーヒーしか無いとか、カップが綺麗だとか、石が綺麗だとか」
すると、女性は店内をぐるぐる見渡して、飾ってあるパワーストーンを見てまた言った。
「あれですね。本当、綺麗な石ですね。母が戴いた薄いピンクのローズクォーツとかいう石が気に入って、毎日見ていると言っていました」
嬉しそうに話す。
「そうですか。私も嬉しいです。コーヒー入れて来ますね。ご希望のカップの色はありますか?」
そう聞くと
「お任せします。ちょっと店内見てもいいですか?」
「わかりました。はい、ゆっくりどうぞ」
私はそう言ってカウンターに入った。
そして、私は淡い藍色のコーヒーカップに入れて持って行った。この色は圭子さんが初めて来てくれた時の色だったから。
圭子さんの娘さんは、ゆっくり店内を歩いて見て席に座っていた。
「お待ちどうさまです」
「ありがとうございます。母が美味しいって言ってました。お店も素敵だって。本当にカップも素敵ですね。藍色は母が好きなんですよ。さすがですね。母は本当に嬉しそうに言うんですよ。私はなかなか母の所に来れないから、心配していましたが、素敵なママさんで本当に嬉しいです。母の事、宜しくお願いします」
そう言った。
すると、コーヒーを口にして
「本当に美味しい」
そう言って、娘さんはまた微笑んだ。
「私の方こそ、お母さんには感謝しています。私もお母さんが来てくれるとホッとするんですよ。何だか、温かい方ですよね」
私もそう言って、微笑んだ。
「母は、ママさんと話すのが本当に嬉しいみたいなんです。それがわかりました。また、母が来たら宜しくお願いします。あの、私が来た事は内緒にして下さい」
娘さんは、そう言ってまた笑った。
そんな話をしていたら
カランカラーン。
お客さんが入って来た。
「すいません」
私は、そう言って、カウンターに戻った。
それから、圭子さんの娘さんは、ゆっくりコーヒーを飲んで席を立った。
何か、あっという間の出来事だった。
本当は、ゆっくり話したかった。でも、他のお客さんが入って来る。
今日は本当に何だかタイミングが悪い。
「ご馳走様でした。ママさん。あの、私もまた来ますね。母の事、宜しくお願いします」
そう言って、支払いをして圭子さんの娘さんは店を出て行った。
「ありがとうございます。もちろん。また、来て下さいね」
圭子さんの娘さんの笑顔が嬉しかったけれど、私は、何か大事な事が話せなかった事とかで、何だか淋しささえ感じた。
そんな時もある。
なかなか思い通りには行かない事もある。
話したい時に話せない。
それも《縁》とか《タイミング》なのだろうか。
〈また、来ますね〉と言ってくれた。
どういう事なのだろうか。
また来てくれるのは嬉しい。
でも、圭子さん、お母さんと来てくれるのだろうか。
それとも一人で来てくれるのだろうか。
〈母には内緒にして下さい〉と言ったのも、どういう意味なのだろうか。
私も、時々余計な事まで考えてしまう。
そう。
余計な事なのだ。
余計な心配なのだ。
自分の事も人の事も、いろいろ考えて悩んでしまう時がある。だけど、たぶん余計な事なのかもしれない。
楽しく、嬉しい想像や考えならいいけれど。
わかっていても、私はよく余計な事や心配をしてしまう。
素直に信じよう。
《また、来てくれる》と。
圭子さんも娘さんも。
今度は、ゆっくり話せたらいいなと。
「美味しいですね、このコーヒー」
初めて来てくれた男性のお客さんが言った。
「あ、ありがとうございます」
その男性の顔を見て、私は
--- また、来てくれるのかなぁ。
なんて思った。
うふふ。
あまり、お客さんが増えても、また余計な事や心配が増えちゃうわ。
私は、そんな贅沢な悩みに、クスッと笑ってしまった。
<49>
いいなと思ったら応援しよう!
![侑✩由亜夢 (水無月流架)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/42562982/profile_7d12b4fbb1ff5ca2a43f1f4d8e202f8b.jpg?width=600&crop=1:1,smart)