圭子さん《80歳》。私はやっぱりホットコーヒーが好きですね♡癒やされます♡〈カフェ42圭子3〉
カランカラーン。
梅雨も明けて、何だか暑さが眩しい。
暑さが眩しいなんて、そう暑さが眩しいんです。
じめじめした雨も時には情緒もあるけれど、でもやっぱり太陽は恋しかった。
だけど、いざ暑くなるとこの恋しかった太陽が熱すぎて、やっぱり人間は時に勝手だなぁなんて思う。
そんな暑い中、圭子さんが来てくれた。
「いらっしゃい、圭子さん」
そう言えばちょっと久しぶりだったかもしれない。
「こんにちは、ママさん。暑くなりましたね」
何だかちょっと、いつもよりゆっくり感じた。
「はい。暑いですよね。大丈夫ですか。今年は更に熱中症に気をつけなきゃと私も思ってるんですよ」
圭子さんはいつも通り、テーブル席に向かって歩いて行った。
私は、おしぼりと水の入ったグラスを持って行った。
圭子さんは、いつもの場所にゆっくり座った。
「いらっしゃい」
そう言って私がテーブルに置くと。
「実は、手術をしましてね。軽い手術でしたから入院も短いんですよ。今は本当に凄い技術ですね」
圭子さんはそう言って、そっと笑った。
「えぇ。大丈夫ですか?」
ちょっとかなり私は驚いてしまった。そんな気配すら感じなかったから。
「いえいえ、前から検査でね。腫瘍が大きくなったいから切ったんですよ。今は凄いですよ。傷もほとんど無いし。回復も早いですよ」
「えっえっ、本当に大丈夫ですか?」
「はい、ママさん。大丈夫だからコーヒー飲みに来ました」
そう言って、また笑う圭子さん。
---でも、本当に良かった。
そうかぁ、ちょっと知らぬ間に意外に月日の流れは早いんだ。
そんな事を思った。
一瞬、ゆっくりな圭子さんの行動は本当だったけど、話す笑顔が変わらなかった事が嬉しかった。
すると。
「ママさん。コーヒー、今日は違うコーヒーカップで飲みたいですね」
そう言った。
「はい。もちろん。何色がいいですか?」
私が聞くと
「ママさんが選んで下さい」
「えっ」
「今、ママさんが感じた色のコーヒーカップに入れて下さい。お願いします」
圭子さんは、優しく笑ってそう言った。
「わかりました。ちょっとお待ち下さいね」
そう言って私はカウンターに行った。
---私の感じた色。
何故か咄嗟に見た七色のコーヒーカップの中から、目に止まった、感じた色は桃色だった。
私は、桃色のコーヒーカップにコーヒーを入れて圭子さんに持って行った。
もちろん、コースターも桃色にした。
「お待ちどうさまでした。桃色でした」
私はそう言った。
圭子さんは、窓の外を見たりしながらコーヒーを待っていたけれど、ちらちらずっと私の様子も見ていた。
「ありがとう。ママさん。可愛い色ですよね、桃色って。ありがとう」
そう言って、圭子さんは嬉しそうにコーヒーを口にした。
「これこれ。このコーヒーがずっと飲みたかったんですよ。良かったわ。私もまだ元気で」
そう言ってまたコーヒーを口にして、嬉しそうに微笑んだ。
「そんな事を言われると本当に嬉しいですよ。本当にお身体は大丈夫なんですか」
ふと、私はテーブル席の圭子さんの前に、ちょこんと座っていた。
「たぶんね。でもママさん、私はもう80ですよ。いつお迎えが来ても当たり前なんですよ。あちらの世界はわかりませんが、それでも生きているなら、こちらの世界は楽しく過ごしたいですからね。美味しいコーヒー飲めましたから、大丈夫ですよ」
そう言った。
本当に可愛いおばあちゃん。
おばあちゃんって感じでもないけど、私は、おばあちゃんって表現が好きなのかもしれない。
私は、そんな圭子さんを見ているのがまた好きなのかもしれない。圭子さんの姿を見て、話しているだけで何だか(ほんわか)する。
私が、ほんわか圭子さんの辺りを見ていると
「あっ、ママさんもコーヒー飲んで下さい」
そう言われてしまった。
圭子さんの前に座ってしまったから余計な気を使わせてしまったのか。
「あ、いえいえ。圭子さんの傍に居たくて前に座ってしまいました。あの」
ちょっと、私が焦っていると
「嬉しいですよ。一緒にお話したいです。だから、私だけコーヒー飲んでいるのも変でしょ」
圭子さんは優しく言ってくれた。
そして、圭子さんは
「私は、コーヒーはやっぱりホットがいいんですよ。冷たいコーヒーもいいのだけど、それでもやっぱりホットがいいですね。癒やされます」
そう言った。
私もそう思っていた。
でもその言葉が、何故かやけに引っかかったのか改めてわかった。
---そうだ。アイスコーヒーを出そうか考えていたからだ。
「はい」
何だか、ちょっとウキウキしながらカウンターに自分のコーヒーを作りに向かう私は、ちょっと悩んでいた問いが解けたかのようだった。
---やっぱり、アイスコーヒーはやめよう。
そう思った。
何故かわからないけど、何だかホッと嬉しかった。
私は、コーヒーをやっぱり桃色のカップに入れて、圭子さんのテーブルに行った。
「お揃いですね。ママさんは桃色が好きなんですね」
なんだか、なんだか嬉しかった。
「はい。お揃いです」
本当に嬉しかった。
それから私は、圭子さんとしばらく話していた。そんな時間が嬉しい。
人生の大先輩。この癒される感覚は何なんだろう。
年老いた〈おばあちゃん〉じゃなくて
人生を経験して来た〈おばあちゃん〉なんだよね。
今は特に悩みとか無いけれど、何かあったら圭子さんに聞いてもらいたいなぁって思う。
そういう人が居るだけで、なんだかホッとする。
「コーヒー、美味しいですね」
「はい。癒やされます」
うふふ。
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