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子どものような苦労知らずの手は、どんどん楽しくなる彼女の人生を表している

両手が物語ることを教えてくださいと問われたら、あなたは何を思い浮かべるでしょうか。

今回取材したのは、介護ライターのしまかげまなみさん
対話のコミュニティでご一緒し、ライターの大先輩としてお世話になっている方です。

「年を重ねるほどに楽しくなってしまっている」と話すまなみさんの手は、何を物語っているのでしょうか。

まなみさんの両手が物語ることとは

故郷・仙台で出会ったお姉さんから受け取った言葉

ーー「まなみさんの両手が物語ること」について、思いついたことはありますか?

まなみさん:
わたしの手は「年齢のわりには子どもみたいな手だね」と言われることが多いんです。

中学・高校は剣道部でよく手のひらにマメができていたし、右手の中指にはペンだこもありました。今よりはもう少し強そうな手だったかも。でも、気づいたら、ペンだこが小さくなっていて今はもう、よく見るとうっすらわかるぐらい。

25歳のときに上京してフリーライターになりました。そのころからだんだんとやわらかい手になり、「苦労してない手だね」「重い荷物持ったことないでしょ」と言われる機会が増えました。今思うと、ちょっと揶揄するような響きがありますよね(笑)。でも、そんなに嫌じゃなかったんです。

ーー「子どもみたいな手だね」が嫌ではなかったんですね。詳しくお聞きしたいです。

まなみさん:
上京することが決まった20代半ばの頃、地元の仙台で仲良くなったお姉さんから「苦労が滲み出ないようにしなさい」と力説されたんです。

彼女は私より10歳ほど年上で、銀座でホステスをした後、仙台でカウンセラー講座の講師をしていました。今思うと新人ホステスに教えるようなことをいくつも教えてくれていましたね。たとえば、「地位のある男性にプレゼントするときの予算は3000円以内。下手に奮発するとかえって気を使わせちゃうのでNG」「タバコの火をつけてもらうことはあっても、つけてあげてはダメ」とか。どこまでホントか嘘かわからない、大人の処世術をたくさん教わりました(笑)

教えてもらったことはほとんど忘れてしまっていましたが、「苦労しているように見えることがプラスには働かない」という考えは、ずっと自分の中にあったような気がします。

ーーパンチのあるキーワードですね。たしかに、まなみさんから苦労や悲壮感を感じたことはないです。

苦労を見せないことで、どんどん楽しい方に向かっている

まなみさん:
当時仙台のお姉さんから受け取った言葉は、今回のお題「両手が物語ること」をもらって思い出したんですが、今の自分の姿につながっているのかもと思いました。

私は今年で51歳なんですけど、ちょうど誕生日当日に会っていた、20代半ばの友達から「前は大人になるのが怖いと思っていたけど、まなみさんを見ていたらそうでもないなと思えます」と言われたんです。これ、めちゃくちゃうれしくないですか。

最高の誕生日プレゼントをもらっちゃった(笑)

まなみさんと20代のお友達

ーーまなみさんの生き方が周囲に伝わっているのですね。まなみさん自身、年齢を重ねるにつれて、だんだん楽しくなっていると感じますか?

まなみさん:
楽しくなっている自覚はありますね。
私の専門分野は介護ですが、つらいことがあっても、それ一色ではなくて、楽しいこともあったりする。それを届けたいなという気持ちがあります。これは楽しいことや嬉しいことに目を向けたい意識も働いているんだろうなと思うんですが、一方で、私は無意識に楽しくなっちゃっている感があるんです。

ーー「楽しくなっちゃっている」とは、どういうことなのでしょうか?

まなみさん:
こう思えるようになったきっかけがあって。

4年ほど前、東京・赤坂にあるスナックひきだしで「40代以上のキャリアを考える」ワークショップに参加したんです。
当時の私は、介護やケアに特化して文章を書いていこうと決めたけれど、お金になるかわからない取り組みもしていて、「もっとお金になることをやったほうがいいのでは? 結局なにがやりたいんだっけ?」と迷っていました。

そのとき、少し年上のスナックのママから「やらない選択はできるの?」と聞かれて、
「…いえ、やっちゃいますね!!」と納得したんです。
お金になるときはなるし、成果にならずに嫌ならやめちゃえばいいと思えて、それからどんどん楽しくなっています。

スナックひきだしのママチームとの1枚

いちばん左が、スナックひきだしのオーナー・紫乃ママ

年上から学び、年下へ循環している「恩めぐり」

ーーここまでお話をお聞きして、まなみさんが年上から学び、年下へ受け継ぐことで、まなみさんを起点に恩がめぐっているのではないかと思いました。

まなみさん:
なるほど! 今まで全然、意識してなかったけど、たしかにそういう側面はあるのかも。スナックひきだしには今でも通っているんですけど、スナック通いの楽しみのひとつに「人生をすごく楽しんでいる先輩に出会える」があるんですよ。年を重ねるってはおもしろいなと思えるし、不安も減ります。

最近新しく始めた遊びとしては「70代半ばの母と、母の友人たちとの旅行に記念撮影担当として同行する」があるのですが、みんなパワフルでそれぞれ活動的だから話題が尽きないんですよ。

年の離れた友人とのやりとりには知らないことが次々に登場して、やっぱりとてもおもしろいです。同じであることよりも、違うことにワクワクする性分なのだろうと思います。

私は、自分が出会った「楽しい!」を誰かにシェアしたいみたいな気持ちもわりと強くて。それぞれ別の友人だけれど、結果としてぐるぐるまわっているのかもなあと気づきました。

ーーまなみさんの両手と人柄の共通点が垣間見えた気がします。最後に「苦労しているように見せない手」を維持するために工夫していることはありますか?

まなみさん:
ここ1〜2年、ハンドケアを意識するようになりました。
介護やケアを書く仕事をすると相談される機会がとても増えています。話をする中で相手の手に触れることがあります。
うまく言葉にはならなくて、それでもそばにいることを伝えたくて、手を握るとか。そんなときはやっぱり、少しでもあたたかくてやわらかい手でありたいなと思っています。

ーー「苦労知らずの手」は、まなみさんの専門領域にふさわしい手ですね。ありがとうございました!

ここまで読んでくださったみなさまへ

インタビュー後、まなみさんのことを知りたくて、まなみさんの著書「親の介護がツラクなる前に知っておきたいこと」を手に取りました。

冒頭に、自身の介護について紹介されていました。

「私の場合、夫の両親が立て続けにアルツハイマー型認知症だと診断されたのは2017年5月のことです。当時、義父は89歳、義母は86歳でした」

(親の介護がツラクなる前に知っておきたいこと p.8より引用)

まなみさんは、きっと苦労していないわけじゃないはずだと、介護に無知ながらに思いました。

でも、まなみさんは年を重ねるほどに楽しくなっている。
まなみさんの背中を見る下の世代にとって、これほど心強いことはありません。わたしも、勇気づけられている一人です。

一方で、まなみさんもまた、仙台のお姉さんや昼スナックのママとお客さん、70代のお母さんとそのお友達など上の世代に勇気をもらい、どんどん楽しくなっているのだと気づきました。

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