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自らの両手で育む「ハナウタカジツ」に励まされた第一人者は、自分自身だった

両手が物語ることを教えてくださいと問われたら、あなたは何を思い浮かべるでしょうか。

今回取材したのは、桃やキンカンなどをハウス栽培する、熊本県のくだもの農家 ハナウタカジツの片山和洋さん
約3年前、生産者と消費者がつながるコミュニティ「一次産業みらいラボ」でご一緒したことをきっかけに、今も活動を応援しています。

いつもは「ハナウタさん」とお呼びしているのですが、今回の記事はあえて「片山さん」と書きたくなりました。その理由が、インタビューの中で少しでも伝わったら幸いです。

ぜひ最後までご覧ください。

片山さんの両手が物語ることとは

片山さんは、「ハナウタカジツ」に励まされた第一人者

ーー今回、なぜインタビューを受けてみようと思ってくださったのでしょうか。

片山さん:
おせっかいですね。半分は考えずに動いています。衝動的に楽しそうだなと触発されて手を挙げました。

ーーおせっかいで、衝動的に。

片山さん:
はい。でも、たまに手を挙げたあとにめんどくさいなと思うことがあります。
それは、自分の中に「ハナウタカジツ」と「片山和洋」それぞれの人間がいて、ハナウタカジツが衝動的に手を挙げ、片山がめんどくさいと思っているんですよね。

ただ、やった方が絶対に楽しいという成功体験があるから、めんどくさいと思っても「一回やってみるか」となり、最終的にはやりとげます。

ーー結果的に、ハナウタカジツとしての判断が勝っているのですね。成功体験で印象的だったことはありますか?

片山さん:
そもそも、私はめんどくさがりで飽きっぽい性格なんです。
農業を始める22歳までは、教師、デザイナー、ケーキ屋など、なりたい職業があったのですが、何にもなれなかった。だからなんとなく、積極的でない理由で農業人生が始まりました。

それでも22年間農業を続けていくうちに、最近は農業大学校の学生150名の前で講師をしたり、ケーキ屋さんで果物を使ってケーキを作ってもらったときに「ハナウタカジツの桃を使っています」とショーケースにPOPを貼ってもらったりと、ハナウタカジツを通して自分の夢を実現できているなと感じます。

農業大学校の学生150名へ講演する様子


ハナウタカジツのロゴマークがついたケーキ屋さんの商品ディスプレイ

ーーハナウタカジツとして農家を続けたことで、片山さんの夢を叶える成功体験につながったのですね。

片山さん:
そういう活動が好きなんでしょ?と問いかける「ハナウタカジツ」が自分の中にいることを受け入れ、おせっかいする理由を探していますね。

果物の収穫タイミングがわかる両手を誇りに思いつつ、出来上がったあとは届け先へ主役をゆずる

ーーそれでは、片山さんの両手が物語ることを教えてください。

片山さん:
農作業をするとき、指先から第二関節にかけて桃を素手で感じ、自分で確かめられるのは手の好きな部分ですね。果物から手に伝わる感じがするんです。

もちろん、今もトゲが手に引っかかったり、間違えることはありますが、収穫前の桃を指で触って「あれはまだかたい、こっちは収穫時期だ」とわかるようになりました。

木から収穫する前に、素手で桃に触れる

ーー生産者としてのこだわりを感じます。

片山さん:
生産する過程ではもちろん責任を持ち、生産者が主役だと思っていますが、果物ができてからは、私は主役を手放しているんです。

ーー手放している、というと?

片山さん:
主役を独り占めせず、だれでも「ハナウタカジツ」の主役になれることを表現したいんです。
私は、生産者と消費者の関係をできるだけフラットにしたい。果物が出来上がったあとに生産者を主役にしないことで、食べている人が自分ごとになって、SNSなどでも発信しやすいのではないかと考えています。

たとえば、ケーキ屋さんでハナウタカジツの桃を使ったケーキを購入しインスタでアップするときに、「片山さんのケーキ」よりも「ハナウタカジツのケーキ」のほうが、生産者が抽象化され、食べる人が主役になる気がしています。

ーー生産者としての自負はある一方、出来上がったあとはあえて主役の座を降りるんですね。

片山さん:
自分が主役を手放したあとに、果物がだれかに届く様子を拍手しながら見て、楽しみたいんですよね。

SNSで見るハナウタカジツへの推し活が、農作業へのエネルギー源になっています。
でも、推してもらうだけではつまらないから推し返したい。インスタで発信してもらえればリポストできるし、推し返す1つの方法だと思っています。お客様に届く様子を見るために、インターネット販売に特化したりしています。


ーーなるほど。【生産者として、”手間暇”をかけ、責任をもって農産物を育てる。出来上がったら生産者が作った果物ではなくお客さんが楽しむ果物として、お客さんへ’’手渡す’’。
だからこそお客さんに喜んでもらえたときには、片山さんは’’手放し’’で喜べるうえにエネルギーを受け取り、’’拍手’’ができる】と理解しました。

果物の主役をゆずった先に、あってほしいと思う景色とは

ーー片山さんの両手で育む「ハナウタカジツ」で、これから達成したいことはありますか。

片山さん:
ハナウタカジツの果物に関わることで、おせっかいするドミノが倒れていくことを目指しています。

ハナウタカジツによって、私がなりたかった姿になる夢を叶えた経験から、おせっかいをするようになったので、果物を楽しむ場面でおせっかいする人が増えてほしいです。たとえば、ハナウタカジツの桃がおいしかったからお裾分けしようなど。

その先に2つ、3つとおせっかいが続いて、それは果物を介さないその人らしいおせっかいでもいいと思っています。

果物をきっかけにおせっかいをして、だれかのため息を鼻唄に変えていこうという気持ちになってくれたらうれしいですね。

ーー「ハナウタカジツ」が片山さん自身のドミノを倒した経験があるから、片山さんはそれを伝播したいのではと感じます。このおもしろさを文章に落とし込みたい…。

片山さん:
まさにそうだと思います。
本名ではなく「ハナウタカジツ」という名前にして抽象化していますが、今回のインタビュー記事で手のうちをさらすというのは、ハナウタカジツをリアルに感じてもらう面白みがありそうですね。

ーーそう言っていただけてうれしいです。ありがとうございました!

さいごに

インタビューをした直後、「片山さんの行動はおせっかいなのか」という問いが浮かびました。

「おせっかい」という単語を調べると、こうありました。

いらぬことに口出しをしたり、余計な世話をしたりすること、人をいう。

コトバンクより引用

片山さんにとっては、おせっかいかもしれない。

でも、わたしを含めおせっかいされた周囲は、片山さんから「ギフト」「思いやり」「やさしさ」のバトンを受け取っているのではないかと感じました。
いらぬことでも、余計な世話でもなく、ハナウタカジツがだれかの役に立っていると思うからです。

ハナウタカジツの果物を通して(ときには果物を介さなくとも)、なにげないおせっかいのように、やさしいギフトを手渡したり、受け取る人が増えますように。


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