ノーベル賞と「星霊の艦隊」
10月になり、ノーベル賞ウィークとなりました。興味のある領域の受賞者や受賞内容については、皆さんも関心を持って注目されていることと思います。さて、現在三巻連続で刊行中の拙著「星霊の艦隊」は、500年後の遠い未来を描くものですが、未来を描いた小説ですので、当然、現在の科学技術がとてつもなく発展した科学技術体系の上に成り立つ社会を描いています。
そこで、現在のノーベル賞、特に自然科学系の受賞内容と星霊の艦隊の世界の関わり、という視点で何か書くことができるのではないかと思い、note記事にしてみました。
まず、物理学賞です。
受賞者と受賞内容はこちらに詳しいでしょう。
今回の受賞内容は、端的に言えば「量子もつれ(エンタングルメント)」を実験的に証明した、ということになるでしょうか。
量子もつれについては下記のWikipedia記事などをご参照ください。
二つの量子からなる系の状態が、それぞれの量子の純粋な状態の固有ベクトル(状態ベクトル)のテンソル積では表せないとき、量子もつれが存在すると言います。つまり、量子Aの状態、量子Bの状態のほかに、量子ABが二つ存在して初めて表せる状態(量子ABのからみあい=エンタングルメント)が存在し、このからみあいのおかげで、量子Aを観測すれば、量子Bがどれだけ離れていても、その状態がわかる、ということです。これは微視的な系でこそ顕著に観測できる現象で、巨視的な系しか直観的に認識できない我々人間にとっては不思議な現象ですが、これを実験的に確認したと言うことです。
「状態ベクトル」という言葉は「星霊の艦隊」シリーズでは「超次元状態ベクトル操作」という言葉で頻出し、「星霊の艦隊」シリーズでは、このような量子的な物理現象が顕著となる微視的なレベルで人間の状態を保存したり、転送したり、消去(!)したりすることができる世界観を描いています。そのため、肉体を構成する素粒子や、神経細胞を伝わる信号の一つ一つまで含む肉体と精神の完全なコピーが保存され、事故に巻き込まれても復活することができる、不死の世界が実現しているのです。
さて、このような不死の世界の実現には、超次元人工ブラックホール「星環」の事象の地平面を演算回路(ホログラフィック回路)とするAI、「星霊」の存在は不可欠です。星霊は疑いなく人間よりも遙かに知能が高い存在なのですが、大多数の人間はこのような未来の世界でも、星霊という知性体に人間と同等の権利を認めていません。人間を人間たらしめるのは何なのか、というのは非常に古く、また新しい議論です。
そうした議論の遡上にしばしば上がるのが、我々人類と非常に近い種であるネアンデルタール人やデニソワ人です。こうした人類の近縁種の遺伝子分析に寄与し、彼らが我々ホモ・サピエンスと交雑した可能性を指摘するに至ったのが、今回のノーベル医学生物学賞の受賞内容です。
「星霊の艦隊」の世界では、人間を人間たらしめるのは、その人格構造にある、とされています。私はこの人間特有の人格構造を「凝集人格構造」と命名しました。これは凝集性ネットワーク、という社会構造の用語から着想を得たもので、極めて同質性が高く、内向きで団結力の高い集団を示す用語です。人間の脳もネットワーク構造を持った知能ですが、人間の「意識」を司る領域は、ネットワークの結びつきの強さ(専門用語では、カルバック=ライブラー距離の短さ)で局限できるという説が提唱されています。
つまり、人間は人間自身、個人として、内向きで、団結力が高く、同質性の高い知能だと私は定義したのです。これは、多様な考え方を同時に受け入れることが難しい一方で、自らの考えを確固として持ち、首尾一貫した自我(意識)を持つには不可欠の構造ではないかと考えています。
ネアンデルタール人やデニソワ人のような人類の近縁種は我々ホモ・サピエンスのような意識を持っていたのでしょうか? これは興味深い観点であり、遺伝子研究からこの問いへの答えを見つけるのは難しいかもしれませんが、いつかこのような答えが見つかる日が来るかもしれない、と期待しつつ、私はノーベル医学生理学賞の発表を見ていました。
さて、長々と拙著とノーベル賞の関係についての所感におつきあいくださり、ありがとうございました。もしこれをきっかけに「星霊の艦隊」にご興味を持ってくださった方がいらっしゃいましたら、下記リンクから、是非お求めになっていただけましたら幸いです。
1巻 https://amz.run/5m6R
2巻 https://amz.run/5mSj
3巻 https://amz.run/5vkx