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【小説】二番目のシンデレラ -72-

シズエが、ルークの首根っこをつかんで、引っ張り上げた。

「お前の仕業か、ドブネズミ」

目の前にはシズエの顔。醜く歪んだ笑顔に、ルークの身体が凍りつく。シズエの左手には、ネズミ捕りカゴが揺れている。

カゴの入り口が近づいてきたかと思うと、勢いよく投げこまれた。上下左右がわからなくなり、すぐに衝撃と痛みが走る。ガシャン、と入り口をふさぐ音がする。

ルークは左右に首をふった。なんとか目を開ける。カゴを持ったシズエが、ふっと息をついた。シズエは、カゴをゆっくりと視線の高さまで持ち上げると、ふっと手をはなした。

浮遊感がルークを襲う。カゴの上に押しつけられる。音をたてて床に落ちた。カゴの端がひずむ。ルークは床に身体を打ちつけた。意識が遠くなる。

かすむ視界の中で、シズエの背中が見える。ソファに向かって手を伸ばした。それは、ミチルの――。思うだけで、声が出ない。

シズエは、ソファに積み重なった原稿用紙を掴んだ。

「はっ、こんなくだらないことをしていたのか。楽しそうに」

数枚をぐしゃりと握りつぶす。握りつぶした原稿用紙を床に投げ捨てた。なんの価値もないもののように。カサッと軽い音を立てて、丸まった原稿用紙が床を転がった。

シズエはふり返ると、ルークが横たわっているカゴを持ち上げた。

「お前は、私が丹精こめて、漬けこんできたものを、台無しにしてくれたんだよ」

ねっとりとした低い声が、薄れたルークの意識に絡みついた。シズエの瞳には、燃えるような憎悪がやどっていた。

「問うことも、疑うことも、不要なものはすべてとり除いて、教育してきたのに――。ああ、なんてことをしてくれたんだろうねぇ。ドブネズミの分際で!」

シズエがカゴをふり上げた。
ルークは目を閉じる。
カゴは、ゆっくりとおろされた。
 
ルークが目を開けると、シズエは原稿用紙の束を掴んだ。物置小屋の扉の前まで歩くと、ふり返って、吐き捨てた。

「ミチルには、あの女の娘にだけは、幸せなんて与えるものか!」


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大塚裕人:ゆう
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