【小説】二番目のシンデレラ -59-
ふたりがいなくなったあと、ミチルは部屋を片づけはじめた。
サイドテーブルやクローゼットにおいた自分の荷物をまとめる。来たときと同じ量なのに、なぜか買い物用のリュックは、来たときよりも膨らんで見えた。
最後に、ベッドにおいた本を手にとった。きっと答えはここにある。そう思いながら、リュックに入れた。
荷物を詰め終えると、ベッドに腰かけた。ゆっくりと部屋を見る。
ルークの影が映っていたカーテン。
向かい合ってご飯を食べたテーブル。
かりたままの丸椅子。
そんなに長い時間、ここにいたわけではない。どんなに短い時間でも、ここにいたその時間は、大切な時間だった。それに変わりはない。
ミチルは軽くベッドを撫でた。見上げた天井は、少し見慣れた万華鏡の模様をしていた。
約束通り、昼すぎにグレイシーとアーサー、それにルークが部屋にやってきた。
「準備は大丈夫かしら?」
「はい、大丈夫です」
「なんだかミチルさんが、ずっといたようで。淋しくなります」
アーサーは、柔らかい笑顔を浮かべた。けれど、そこには少し悲しげな表情が加わっていた。
「さあさあ、新しい出発だと思って、笑顔でいきましょ」
グレイシーは、得意の笑顔を浮かべた。
「ルーク、お願いね」
「わかった」
「それじゃ、いきますよ」
グレイシーは、ステッキをかかげると、くるっと回転させた。
「テナンジョ!」
ステッキから飛び出した光が、ミチルとルークをつつみこんだ。その光が弾けるように消えると、そこにふたりの姿はなかった。
「校長先生は、どうして、急にミチルさんを帰したんでしょうか?」
ふたりがいなくなった場所を見つめながら、アーサーが呟いた。
「ここにいる必要がないと、判断されたんですよ。きっと」
「必要がない?」
「ええ。ミチルさんは、ここに、見つけに来たんでしょ」
「見つかったってことですか? でも、まだ気づいてなかったような……」
「それは、もう持っているってことですよ」
グレイシーは、にっこりと微笑んだ。