【小説】二番目のシンデレラ -77-
ビニール傘が光につつまれる。
塀の上で寝ていた猫が、驚いて逃げ出した。折れて気力を失ったビニール傘は、新品の竹箒に生まれ変わった。
「ミチル、つかまれ」
ルークは、箒に飛びのる。
「へっ、うん」
「チッカルポ!」
ミチルが掴んだ箒は、打上花火のように空にのぼった。ミチルは、両手に渾身の力をこめて、箒を握った。
「ノンサマモ!」
竹箒は、街が見わたせる高さで止まった。ミチルとルークは、回収車を探す。
「何色だった?」
「青」
「青、青……。もっとピンクとかなら、目立つのにぃ」
黄色い屋根、赤い車、緑の街路樹。青以外の色が目につく。それに、どうしても動いているものばかりに目がいく。回収車が動いているとはかぎらない。
「もう、どこなの……」
ミチルは、箒にのっていることも忘れ、一心不乱に回収車を探した。この辺りには、いないのかもしれない。そう思ったとき、ルークの声が飛びこんできた。
「いた、あそこ!」
ルークが指さす。回収車は、隣町の公園の前を低速で移動していた。
「追うぞ、アイコフ!」
竹箒は急降下した。道路にぶつかるすれすれのところで急停止し、方向を変えた。
地上三十センチの高さを高速で移動する。もはや箒にのっているのではなく、高速で移動している箒を必死で掴んでいる。そんな状況だった。ゴミバケツやガードレールが、目線のとなりをビュンビュン横切る。
細い路地から、散歩中の犬の頭が出てきた。
「犬、犬、犬!」
ミチルは慌てて連呼した。箒は走る場所を道路からブロック塀に移した。視界が九十度回転する。右側に道路、左側が空。真下に『森下』さん家のチャイムが見えた。
「いた!」
ルークが叫んだ。塀が途切れて、また箒が回転する。
箒は、速度を落として回収車に並行して走った。箒に座ったミチルは、運転手に顔を向けると、ぎこちない笑顔をつくった。
車の窓越しに運転手と目が合う。運転手は目を見開いた。同時に車が急停止した。