【小説】二番目のシンデレラ -75-
やっとの思いで保健所にたどり着いた。
自動ドアの前で呼吸を整える。入り口を入ってすぐのところに受付があった。そこに座っている女の人に訊いた。
「あの、少し前にハムスターが、こちらに来たと思うんですけど」
「申し訳ありません。こちらは連絡の受付はしているんですが、動物は保護センターのほうに運ばれますので」
「え、そうなんですか。えっと、その保護センターはどこにあるんですか?」
受付の女の人は、簡易な地図をとり出して、丁寧に説明してくれた。
「ここからですと、電車で四十分くらいだと思います」
「そんなに……。あ、わかりました。ありがとうございます」
ミチルは、地図をもらって保健所を出た。もう一度、地図を見る。
「四十分か……。このままここで悩んでてもしかたない。まだ、できることがある」
ミチルは、一番を近い駅を探した。公園の向かいに電車のマークが見えた。それと同時に駆け出した。
走ることに夢中だった。わき道から出てきた男の人に、勢いよくぶつかる。後ろに倒れて、しりもちをつく。
「痛っ」
「気をつけろ!」
激しく怒鳴られる。男の人は、持っていたカバンをミチルの肩にぶつけた。
涙が溢れそうになった。ぐっとこらえて、唇を噛みしめる。まわりの人が、座りこんでいるミチルを避けて通る。
両手がヒリヒリする。見ると、両手とも擦りむいて、砂利がついていた。このまま、泣いてしまいたい。
「もう……」
空を見上げる。青い空が涙で滲む。
喧騒だけが、ミチルをつつむ。
複数の靴の音。複数の人の声。複数の車の音。
遠くて、鈍くて、曖昧な――。
「ミチル!」
涙が流れる寸前、鮮明な声が耳にとどく。
ミチルは、顔を向けた。
声のしたほうをくまなく探す。
街路樹の下。木の根元に小さな影。
「ルーク!」
ミチルは、街路樹に駆けよると、根元にもたれかかっているルークを両手でつつんだ。ふわふわの毛は、泥だらけになってごわごわしていた。あちこち傷だらけで、目の上が切れて血が滲んでいた。
「血が出てる。どうしよう……」
「大丈夫、ちょっと切っただけだから」
ミチルの手の中で、ルークは笑って見せた。