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【小説】二番目のシンデレラ -64-

「ミチルちゃん」
「はい」
「もし、よかったらなんだけど、ウチで一緒に住まないかい?」
「え?」

「前から、ちょっと思ってたんだ。でも、なかなか言うタイミングがなくてね。今の家は、その、もしかしたら、居心地がそんなに良くないんじゃないのかなと思って。それに、ウチにもね、ミチルちゃんと同じ年の娘がいるんだ。ミチルちゃんは、おぼえてないかもしれないけど、ちっちゃいころに、何度か会ってるんだよ。ハルカっていうんだけどね。ハルカは、またミチルちゃんに会いたいって言ってたし」

おじさんは、持っていたコーヒーをぐいっと飲み干した。

「急にこんなこと言って、ごめんね。でも、一度、考えてみてよ」

コーヒーの空き缶を、近くのクズカゴに軽く投げ入れた。

「買い物袋、持って帰るの手伝おうか?」
「いえ、あの、はい、大丈夫です」
「そう。さっきの電話番号に、いつでも連絡してくれていいから」

おじさんは「じゃあ、また」と片手を上げて、公園から去っていった。

最後は、同居の勧誘だった。わたされた名刺には、ひと駅向こうの住所が書かれていた。ミチルは、ぼんやりとその名刺を見つめた。

「ミチル、帰らないと」

ルークの声で我に返った。ミチルは、買い物袋を持って立ち上がった。

家の玄関まで来て立ち止まる。引き返してルークを物置小屋に残すと、玄関の扉を開けた。そこには、トシコが立っていた。

「ただいま、帰り――」
「昼食の時間を過ぎているじゃないの! いったいどこの国まで買い物に行ってたのよ!」

隣三軒にも聞こえるような大声で、怒鳴られた。

昼食は淡々と進み、そのまま十三時少し前に、三人は出かけていった。ミチルはひと通りの家事を終わらせた。時計を見ると、十六時すぎだった。なんだか、追体験しているような不思議な気持ちだった。

よく考えると、あの日も掃除したのに、また掃除しているのは、ちょっと損をしたような気がした。


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大塚裕人:ゆう
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