【小説】二番目のシンデレラ -78-
ミチルは、箒から降りて、ルークを肩にのせた。
「あの、いろいろ思うところはあると思うんですが……」
ミチルは、二時間ほど前にわたした原稿用紙を返してもらいたいと伝えた。
回収車の色と同じくらい真っ青になった運転手は、荷台に飛びのると、原稿用紙の束を掴んで、押しつけるようにミチルにわたした。
運転手は、首にかけていたタオルで流れ落ちる汗を拭うと、急いで車に乗りこんだ。窓からちらりとミチルをうかがう。ミチルは、少し首を傾けて笑顔を向けた。今度は上手く笑えた、と思った。
回収車は、急発進すると、猛スピードで交差点を曲がって行った。
回収車を見送ると、受けとった原稿用紙に目をやった。原稿用紙は、折れていたり切れていたりと、満身創痍だった。それでも、ミチルのもとにもどってきた。
「よかったぁ」
ぼろぼろの原稿用紙を見つめて、そのまま抱きしめた。
* * *
ミチルは、物置小屋で丸まっていた原稿用紙をテーブルにのせると、丁寧にシワをのばした。長方形にはもどったものの、相変わらずクシャクシャのままだった。のばした一番上のページの文字が少しぼやけた。けれど、なんとか読みとれる。
回収車からもどってきた原稿用紙の束と合わせる。上にある数枚は、ごわごわとして浮かんでいる。下の束は、まとまってはいるけれど、切れたり折れたりで傷だらけ。ちっとも綺麗に重ならない。その不格好な紙の束を見て笑った。
新しい原稿用紙をテーブルにおくと、ミチルは原稿用紙の内容を写しはじめた。
「書き直すのか?」
「写すだけ」
「ぼろぼろになったから、捨てちゃうのか?」
心配そうにルークが覗きこむ。
「そんなことしないよ。そばにおいておくの」
「じゃあ、なんで写すんだ?」
「読んでもらおうと思って」
「誰に?」
「将棋のおじさん」
そう、読んでもらおう。それがどんなに不格好な物語でも、それがアタシのやりたいことだから。アタシは、物語で誰かに笑顔をとどけたい。それがアタシの夢だから。
新しい原稿用紙が、みるみる埋まっていく。書けた紙は、カーペットの上においた。ミチルは、無心で鉛筆を走らせた。
途中で何度か鉛筆を削る。前後で文字の太さが変わった。間違っているところもいくつか直した。書き写している自分と、物語の中にいる自分を感じた。
いま、アタシは、どこにいるんだろう――。
鉛筆は、変わらず原稿用紙に文字を落としている。
けれど、目の前には、物語の世界が広がっている。
文字とともに、物語が進む。