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【小説】未来から来た図書館 -39-

急いで「物語ノート」を引出しの中に片づけたかったけど、ボクの部屋の空気が固まっていて、ボクも動けなかった。
「何度言えばわかるんだ。役に立たないことをするな」
そう言うと、父さんは机の上に開いてある「物語ノート」をバンと閉じた。
その音に驚いて、ボクの身体はビクッと跳ねた。

「お前が今やるべきことは、勉強だろう」
ボクは、何も言えずに、ただにぎった鉛筆を見ていた。
ボクがあまりにも強くにぎったから、鉛筆は泣いていたかもしれない。
「わかったら、勉強をしなさい。返事は」
「はい……」
父さんは机の上の「物語ノート」を手にとると、足元においてあるゴミ箱にストンと落とした。
丸いゴミ箱の中で、斜めにゆがんだ「物語ノート」。
ボクは、ボクの心がゴミ箱に落とされたように感じた。

その夜は、眠ろうと思っても眠れなかった。
目を閉じるたびに、森で嬉しそうに聞いてくれる動物たちが浮かび、それと同時に「役に立たないことをするな」という声が聞こえた。


気がつくと、朝だった。
ボクは、ぼんやりと天井を見つめた。
なんだか夢をみたようだけど、どんな夢だったか忘れてしまった。
時計を見ると、七時七分だった。

ボクの目覚まし時計には、時間と日付と曜日が表示されている。
今日は、月曜日。そうか、図書館はお休みの日だ。
ボクはゆっくりと朝食を食べた。
父さんは、会社に行ったあとだった。
それだけで、少しほっとした。

「今日は、どこか行くの? 図書館休みでしょ?」
洗濯を干し終わった母さんが、空のカゴを持ったまま、ボクに訊いた。
「うん、公園……」
「どうしたの? なにかあったの?」
ボクの話し方がいつもとちがったのか、母さんがそう訊いた。
「べつに、なんにもない……」
「そう。まあ、話したくないなら、無理にはきかないけど」
そう言って、母さんは洗濯機がおいてある浴室のほうに歩いていった。
ボクは、朝食を半分残したまま、「ごちそうさま」と手を合わせた。



*** 2022.03.29 表記の揺れを修正


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