【小説】二番目のシンデレラ -47-
「マシュー」
アーサーの低い声が響いた。いつもは柔らかい笑顔のアーサーの表情が険しい。マシューは、アーサーに背をむけると、自分のボールを軽く蹴った。
ルークは、グラウンドに埋まったボールをとり出そうとしている。そこにアーサーが向かい、ステッキをまわす。ボールは、ゆっくりとグラウンドから出てきた。
ルークが、アーサーに頭を下げた。アーサーは、身振り手振りでルークになにやら説明していた。ルークはそれを頷きながら聞いている。
マシューはつまらなそうに、リフティングをはじめた。膝や胸で何度か遊んだあと、ボールを高く蹴り上げた。落ちてきたボールをキャッチすると、口元をあげた。
「なあ、ルーク。こいつに、お前の一流の魔法、見せてやれよ」
片手にボールを持ったマシューが、もう片方の手でミチルを指さす。アーサーが動こうとするのをルークが止めた。アーサーを見て頷く。
ルークはミチルの前まで歩いてくると、少し離れたところにボールをおいた。ステッキを握って深呼吸する。
急にまわりが静かになった。誰もがルークを見つめる。張りつめた空気。真剣な表情のルーク。足元のボールを見つめる。息を吸う音が聞こえた。
「チッカルポ」
浮遊の呪文を発する。ステッキを握った手が小さく震えている。ボールは、ぴくりとも動かない。ルークの額から汗が流れ落ちた。ミチルは、手のひらに爪が食いこむほど力をこめた。
「頑張れ!」
ミチルの声が響く。震えていたルークの手がぴたっと止まった。ゆっくりとステッキが下がる。ルークは俯いたまま動かない。まわりがざわつきはじめた。
どうしたんだろう。ミチルは握りしめた手をおろす。
ルークがすっと顔を上げた。ルークの目つきに息が止まる。怒りのこもった瞳が、ミチルを見据える。
「頑張ってないヤツが、簡単に言うな」
「えっ」
「自分のやりたいこともわかってないくせに、他人に頑張れなんて言うな!」
「ルーク」
アーサーの低い声が制止する。ルークは唇を噛んだ。ミチルは、なにが起こったのかわからなかった。そのまま、ただルークを見上げていた。
張りつめた空気を打ち砕くかのように、終業の鐘が鳴った。