【小説】二番目のシンデレラ -53-
マシューは、両手を後ろについたまま、ルークを見上げる。
「なんだ。邪魔したから、文句でも言いに来たのか」
「ありがと」
「えっ」
「だから、助けてくれてありがと。オレひとりじゃ、無理だったから」
「なんだよ。礼なんて言うなよ……」
マシューは、ルークから目をそらした。ルークは、マシューのとなりに座って、同じように後ろに手をついた。
茂みの中でも空は見えた。木々に囲まれるようにして、空が見えていた。まだ日は高く、そこに雲はなかった。もちろん、大鷲もいない。抜けるような青が覗いていた。
へとへとだ。ルークは、やっと疲れを感じることができた。勝手に膝がカクカクと動いている。こんなに魔法を使ったのは、生まれてはじめてかもしれない。
「稲妻、出せるんだな」
空を見上げたまま、マシューが言った。
「必死だったから」
ルークが空に向かって返した。
緑の匂いがする風が通り抜けた。
「ごめん、お前の邪魔ばっかして」
マシューの言葉が風にのる。
ルークは、全身で風を感じた。
ふうっと息をつく。
「いいよ」
清々しい風だった。汗も疲れも拭い去ってくれるような気持のいい風だった。
「怒ってないのか?」
「怒ってた。でも、助けてくれたから」
ルークは、マシューを見て口元をあげた。
「ちっ」
マシューは、笑いながら舌打ちをした。
* * *
ふたりが見上げている空を、グラウンドからグレイシーとアーサーが見上げていた。腕組みしていたアーサーが、大きく息をついた。
「見ているだけというのも、なかなか疲れますね」
「そうね。でも、校長先生に『信じて待ちましょう』なんて言われるとね」
「大事に至らなくてよかったです」
「教育は忍耐だなんていうけれど、ほんとに、胃がいくつあっても足りませんよ」
グレイシーは、胃のあたりをさすった。
「迎えに行きますか?」
アーサーは、グレイシーに目を向ける。
「そうね、動けないでしょうからね。でも、もう少ししてからにしましょ」
グレイシーは、アーサーを見て眉を上げた。アーサーは、柔らかい笑顔を返した。