【小説】二番目のシンデレラ -51-
こだました大鷲の声を、マシューはグラウンドで聞いた。
そこから裏山を見上げる。ルークが大鷲と対峙しているのだろう。ルークの姿は見えない。ただ、空中で大鷲が止まっている。
いや、わずかに動いているが、なんとかとどめているといった感じだろう。稲妻を撃ちこんだようだが、状況は変わっていない。
ボールも浮かせられないルークが、稲妻を出せたことは奇跡に近い。けれど、このまま持久戦になったら不利なのは明らかだ。ルークは確実にスタミナ切れになる。
相手はあれだけの大きさだ。抑えておくだけでも、全速力で走っているのと同じ体力を使う。裏山に移動するのに、移動魔法も使っているだろう。もう抑えておく力も残っていないかもしれない。
マシューは、右手に握った懐中時計を見た。もってあと五分。
「くそっ」
裏山を見上げて、親指の爪をぐいっと噛みしめた。
「行けよ、マシュー」
不意に声が聞こえる。ふり向くと、リアンが立っていた。リアンは、眼鏡を一度押し上げると、マシューを見据えた。
いつもと変わらない、冷静なまなざし。それ以上、なにも言うつもりはないらしい。リアンはいつだってそうだ。必要なことしか言わない。
リアンの後ろから、ジェスがひょっこりと顔を覗かせる。ジェスはマシューを見て、にへっと笑った。眉を上げて二度頷く。
ジェスは、いつもひと言多いくせに、必要なことは言わない。
「ちっ」
ふたりの顔を見て、マシューは舌打ちした。
「ルークのヤツ、なんにもできないくせに、飛び出しやがって」
言葉を吐き捨てると、ステッキをとり出した。
「キッテイア!」
* * *
ルークが大鷲を抑えこんでから、十分以上が経過していた。
ミチルは、大鷲のかぎ爪の中で、口を開いて息をしている。拳を握って、ふらふらと持ち上げては、かぎ爪にぶつけている。
ルークは、ガクガクと震える膝に力をこめて、なんとか立っていた。熱さを通りこして、寒気がする。意識が朦朧として、ときどき大鷲が二重に見える。それでも力を抜くことなどできない。
このままずっと抑えこんでおくだけでは、ダメだ。けど、もう抑えこんでおく力もほとんどない。どうすれば――。
大鷲の燃えるような瞳に、怒りが増していく。大きく開け放たれたくちばしからは、腹の底を突き上げられるような低いうめき声がもれる。その威圧感だけで、膝をつきそうになる。
ルークは、左右に首をふって大鷲を見据えた。自分を鼓舞するように声を上げる。
「助けるんだ!」
その声と同時にとなりで風が起きた。突然、マシューがあらわれた。
「マシュー」
「お前をヒーローになんかさせないからな」
マシューがとなりで、大鷲を睨みつけた。