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【小説】二番目のシンデレラ -83-

口にしてから、それを言ったことに気づく。

はっとして、おじさんの顔を見た。おじさんは眼鏡の奥で、何度も瞬きをしている。

「あの、えっと、アタシ、なんでもします! だから――」
「なにも、しなくていいんだよ」
「え?」
「ミチルちゃんは、ミチルちゃんのやりたいことを、すればいいんだよ。ボクは、そのために、ウチに来ないって言ったんだから」

おじさんは、持っていた原稿用紙を膝の上においた。

「ミチルちゃんは、物語を書きたいんだよね」
「はい」
「シズエさんは、それを応援してくれてる?」
「いいえ……」

ミチルは、書いた物語をシズエに捨てられたことを、おじさんに話した。

「そっか、そんなことがあったんだね」

おじさんは、そこで一度呼吸を整えるように、言葉を切った。

「よし。シズエさんには、ボクから、きちんと話をする」
「はい」
「にしても、強敵だね」

おじさんは、にっと白い歯を見せて笑った。ミチルは思わず吹き出した。添削の続きは、おじさんのウチですることを約束し、おじさんと別れた。

ミチルは公園を出ると、遠まわりになる道を選んで家に向かって歩いた。建物がまばらになり、水をはった田んぼが広がる。緑の稲の葉が、真っ直ぐ空を目指している。風にのって、少し夏の匂いがした。

ミチルは、左右の足をゆっくりと蹴り出した。

「ねえ、ルーク」
「ん?」

おじさんといる間、ルークはハムスターに徹してくれていた。引き続き、ミチルの肩の上で毛繕いをしている。

「なんか、不思議だね」
「なにが不思議なんだ?」
「なんだか、楽しい」
「へ?」
「こんなふうに、楽しいって思えるのが、不思議だなと思って」
「だって、ミチル、変だったもんな」
「失礼だよね」

ミチルは片手でルークのほおを、ぶにぃ~っと引っぱった。思ったより、よくのびた。ルークが肩から転げ落ちそうになったので、手をはなした。

「急に引っぱるなよ!」
「じゃあ、次は言ってからにする」

用水路の透明な水の中で、柔らかそうな藻がなびいている。用水路から田んぼに引きこまれた水は、じゃばじゃばと音をたてて流れていた。


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大塚裕人:ゆう
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