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【小説】二番目のシンデレラ -61-

車道との境に植えられた街路樹は、緑の葉を茂らせていた。

あの日と同じように、キラキラと輝いている。葉の間を通り抜けた光が、ミチルの足元で影を揺らしていた。

「あのう……」
「えっ」

突然聞こえた声に驚いて、ミチルは顔を上げた。そこには、よれよれのスーツを着た青白い顔の男の人が立っていた。負のオーラを体現化したような陰気な男の人は、目が合うとミチルに一歩近づいた。

「すみません。よかったら、壺を買っていただけませんか?」

なんの用かと身構えていたが、勧誘だとわかると、ミチルは対勧誘モードに気持ちを切り替えた。

「大丈夫です。ウチ、壺だらけなので」
「えっ、壺だらけなんですか?」
「なんなら、ウチが壺です」
「えぇ!」

よれよれの男の人は、隈のできた目を見開いたまま、その場で固まった。

「では、失礼します」

ミチルは、笑顔でそう応えると、また歩道を歩きだした。

「すみませぇ~ん」

しばらくすると、また声をかけられた。今度は、明るい茶色の髪をくるくると巻いた、短いスカートの女の人だった。

「新しい化粧品なんですけどぉ、昨日、発売されたばかりでぇ――」
「間に合っています」

ミチルが通りすぎようとすると、羽ばたいて飛んでいきそうなまつ毛の女の人は、ミチルの進行方向にするりとまわりこみ、チラシをさし出した。

「『シンデレラメイク』っていうんですけどぉ、挑戦しちゃいませんかぁ?」
「大丈夫です。アタシ、二代目シンデレラなので」
「はあ?」

くるくるの髪の女の人は、人が変わったように低い声を発した。きっと、こっちが本物だろう。あからさまに怪訝けげんな表情を残すと、標的を別の通行人に変えた。

歩きだそうとすると、すぐさま声をかけられた。

「あの、マッチはいかがですか?」
「え? マッチ?」

そこには、赤いベレー帽に茶色のワンピースを着た少女が立っていた。同い年くらいだろうか。大きなカゴには、大量のマッチが入っている。きっとひとつも売れていないのだろう。

初夏の昼間に、街角でマッチを売るとは。ビジネスの方法を見直したほうがよいのでは、と知ったようなことを思ったが、言わなかった。

よく見ると、マッチ箱には、横を向いた大きなわしがデザインされていた。

「おいくらですか?」

ミチルは、買い物袋を足元におくと、ポケットからお小遣い用のがま口をとり出した。

「えっ、買ってくれるんですか?」
「えっ、売ってるんじゃないんですか?」
「いえ、買ってもらえたの、はじめてで。ありがとうございます! えっと、一箱四十本入りと、徳用の八百本入りがありますけど、どちらにしますか?」
「え、じゃあ、四十本入りで」
「ありがとうございます。百二十円です」

ベレー帽の少女は、マッチを一箱ミチルにわたすと、両手でお金を受けとった。

「本当に、ありがとうございます」

深々と頭をさげる少女に、軽く会釈して、ミチルは歩きはじめた。

「マッチなんて、なんに使うんだよ」

肩の上で、ルークが呟いた。

「なんだか、綺麗なデザインだなぁと思ったから」

ミチルは、少しだけいい買い物をした気分になった。


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大塚裕人:ゆう
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