【小説】二番目のシンデレラ -50-
ルークが外に飛び出すと、大鷲は翼をなぎはらった。
また旋風が起きる。ルークは腕で顔を覆った。見ると、大鷲は背を向けて裏山の方に向かっていた。
ポケットから、ステッキをとり出す。
「キッテイア!」
先まわりして裏山に移動する。けれど、移動できたのは中腹まで。そこから、山道を駆け上がる。木々の間から見上げると、大鷲が向かってきている。
「山頂で止めないと」
奥の山を越えられては、追うことができない。ルークは、土煙を上げながら傾斜を駆け上がる。張り出した木の根が邪魔をする。思った以上にスピードがでない。汗がしたたり落ちた。
大きな木の根をジャンプする。着地した先の草で足が横に滑る。派手に転んだ。右の肩を地面に打ちつける。痛みに顔が歪んだ。左手で肩を握ったまま立ち上がる。右腕がしびれている。
「くそっ」
ミチルを捕らえた大鷲は、もうすぐ裏山の山頂に到達する。迷っている暇はない。ルークはステッキをとり出して、もう一度、移動の呪文を唱えた。
山頂の展望台に着地する。移動は上手くいった。正面から大鷲が迫ってくる。
「ミチル!」
ルークは、声を張り上げる。その声にミチルが反応した。
「……ルーク?」
ミチルは、四本のかぎ爪でしっかりと握られている。意識をとりもどしたミチルは、なんとか抜け出せないかもがいている。けれど、力の比など明らかだ。ルークは、ステッキをまわした。
「コヌーガ!」
大鷲の動きが空中で停止する。けれど、完全には止められない。縛りつけられた翼をなぎはらおうと、ギリギリと反らせる。
大鷲の緋色の瞳に炎のような怒りが灯る。かぎ爪に力がこめられた。それと同時に、ミチルの表情が歪む。
ステッキを握ったルークの右手が震える。全身が燃えるように熱い。両足がじりっと地面の土を踏みしめる。流れ落ちた汗が、地面にしみこんだ。
人ひとり助けることもできないのか――。
目を閉じて、奥歯を噛みしめた。
『ルークは箒が大好きなんだよな』
『ルークは、ボールを消すのが得意だな』
『お兄様は、立派な魔法使いですのにね』
額から顎の先まで汗が流れるのを感じた。
「ルーク、信じて!」
空からミチルの声が響く。ルークは、空を見上げた。
「ルークは、一流になるために頑張ってきたんでしょ」
苦痛に耐えながら、ミチルが声を張る。
「アタシは信じるよ、ルークのこと。だから、ルークはアタシより信じて。だって、頑張ってきたの、一番知ってるのはルークでしょ!」
ルークは、汗をふりはらった。右手のステッキを握りしめる。
「ムナイザ!」
ルークのステッキから銀色の光が放たれた。稲妻が大鷲の顔面に直撃する。大鷲の咆哮が耳をつんざく。けれど、大鷲はいっそうの激しく翼を反らせた。