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【小説】二番目のシンデレラ -71-

「役所に行って、住民票をとってきなさい」

ダイニングの掃除をしていたミチルの後ろから、シズエの声がした。

「え?」

ハタキを止めてふり向く。腕組みをしたシズエが扉の前で立っていた。住民票? 誰の? なんのために? ミチルが疑問符に囲まれている間に、間髪入れずにシズエの声が飛ぶ。

「私の住民票をとってくるんですよ、今すぐに!」

ピリピリしていることは、すぐにわかった。シズエは腕組みをしたまま、右手の人差し指で、左肘をせわしなくたたいている。眉間のシワが深い。

「あっ、はい。わかりました」

ミチルは、急いでハタキをカウンターにおくと、エプロンを外した。ミチルがキッチンの扉から出ていくまで、シズエはじっとミチルをにらんでいた。

どうしたんだろう、突然。住民票って、市役所まで行かないといけないのかな。往復で四十分だとしても、一時間以上はかかりそう。はぁ、予定外……。溜息をついて、わかりやすくがっかりすると、家の玄関を出た。

ガチャン――。
物置小屋の錠が開く音がした。

「ミチル?」

ルークは時計を見た。十一時前。こんな時間にもどってきたことは、いままでなかった。財布でもとりに来たのだろうか。けれど、なにかがいつもと違う。あんなに激しい音をたてて錠を開けるのを聞いたことがない。ルークは身構えた。

異様な静けさの中に、扉のきしむ音が響く。扉が開いた。人が立っている。逆光でよく見えない。立ち止まったまま、入ってこない。

ルークは、ゆっくりとテーブルにのぼった。
扉の前の人影が、一歩、中に入る。
顔が見えた。シズエだ。

シズエは、舐めるように部屋を見まわしている。テーブルの上のルークと目が合った。シズエは、少しあごを上げると目を細めた。片方の口元だけが、ゆっくりと上がっていく。バタン。勢いよく扉が閉まった。

逃げろ! ルークの第六感が言う。ルークは、テーブルから飛び降りた。床を走ってベッドの隙間に滑りこもうとした、その瞬間、身体が宙に浮いた。


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大塚裕人:ゆう
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