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【小説】二番目のシンデレラ -42-

どこかで扉が開く音が聞こえた。

誰かが起きたようだ。それから徐々に音が増えた。

廊下を歩く音。また扉が開く音。話し声。窓の開く音。窓の外からの話し声。どれもはっきりとは聞こえない並行する日常の音。そんな音が聞こえてきたことに、なぜか安心した。

コンコン、とはっきりした音が聞こえた。ミチルは目を開けた。窓の向こうに人がいるのがわかった。ベッドから立ち上がると、窓を開けた。

「おはよう。ルーク」
「おはよう。起きてたのか?」
「早起きだって知ってるでしょ」
「そうだった」

昨日と同じように、ルークは朝食を持って部屋に来た。焼きたてのパンが、いい匂いを漂わせた。テーブルをはさんでルークと向かい合う。ふたりで手を合わせた。

「いだたきます」

自分で作る朝食は、ただの家事。食べても、ちょっと味が濃かったかな、程度の感想。けれど、誰かが作ってくれた朝食は、美味しかった。目玉焼きもベーコンも。

母の作った朝食を思い出す。目玉焼きは、いつも黄身が硬めで、白身の端のほうがカリカリになっていた。

ふと、自分が同じ目玉焼きを作っていることに気づいた。ふっと笑ってしまった。皿の上では、フォークで割った半熟の黄身がとろりと流れた。

最後にコーヒーを飲み切ると、カップをトレイにおいた。ルークは、ミルクを飲み干そうとしていた。正面に座ったルークは、黒に臙脂の制服を着ている。ミチルは自分が着ている服を見た。

「ねえ、ルーク。この格好、変じゃない?」
「変じゃない」
「よかった。また変だって言われるかと思った。みんな、制服だし」

ミチルは、白いブラウスのシワをのばして、瑠璃色のスカートを軽くはらった。

「今、何時?」

ルークは、ポケットから銀色の懐中時計をとり出して、フタを開いた。

「八時五分」
「もう、そんな時間なんだ」
「トレイ返したら、学校に行こう」
「うん」

ルークは、懐中時計のフタを閉めると、そのままミチルに差し出した。

「え、いいの?」
「うん。オレは、別のがあるから」
「ありがと。助かる」

懐中時計のフタには、七芒星と月のマークが刻まれていた。フタを開くと、銀の文字板に青い数字がぐるりとならんでいた。中心が透明で、いくつもの小さな歯車が連なって時を刻んでいる。

「綺麗」
「行くぞ」

ルークはトレイを持って、扉を出ていこうとしていた。ミチルは、慌ててスカートのポケットに懐中時計を入れると、自分のトレイを持ち上げた。


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大塚裕人:ゆう
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