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【小説】二番目のシンデレラ -52-

「オレが抑えこんであの爪を開く。お前はあいつを移動させろ。できるか」
「やる」
「上等だ、いくぞ!」

マシューは、地面の土を踏みしめると、ステッキを構えた。

「コヌーガ、コーゲ!」

マシューが呪文を発する。ミチルを握った四本のかぎ爪が、ギリギリと動く。

「うぉぉぉ」

マシューの雄たけびとともに、大鷲おおわしのかぎ爪が開いた。

「今だ!」
「キッテイア!」

ルークは、移動の呪文を発する。
ミチルが、かぎ爪の中から消えた。
解放された大鷲が、翼をなぎはらう。
旋風が、ふたりに向かう。
ふたりは、とっさに両腕で顔を覆う。

大鷲は、怒号をあげながら、何度も翼を空中に叩きつけた。大きく首を反らせたかと思うと、翼を反らせて急降下した。ルークとマシューの真上で、ふたつのかぎ爪が開く。ルークは、思わず目を閉じた。

「キッテイア!」

とっさにマシューが、呪文を発する。
ふたつのかぎ爪は、空を切った。

大鷲は、山頂すれすれで翼を開いた。そのまま上昇して、しばらく旋回する。標的を失った大鷲は、最後の旋風を残して、奥の山へと飛び去った。

ルークとマシューは、茂みの中に立っていた。ゆっくりと両腕をおろす。顔を見合わせた。汗だくの土まみれ。泥んこになって遊んだあとのような顔をしていた。

「ひどい顔だな、お前」
「マシューもだよ」

お互いの顔を見て笑った。マシューは、その場に座りこんだ。ルークは辺りを見まわす。

「ミチル!」

ミチルは、ルークたちの後ろの芝の上に横たわっていた。

ルークは、ミチルのもとに駆けよった。ミチルの首の後ろに腕をまわして、上半身を軽く起こす。怪我がないか確かめる。服は汚れていた。頬に少しかすり傷があった。骨折はしていない。大きな傷も見当たらなかった。

「よかった……」

ルークは、ミチルを抱えたまま、大きく息をついた。

「ルーク?」

ミチルが、うっすらと目を開けた。

「ミチル、大丈夫か?」
「助けて、くれたの?」
「当たり前だろ」
「へへ、やっぱりね」

ミチルは、弱々しく微笑んだ。

「信じてたんだ、ルークのこと」
「うん」

ルークは、唇を噛みしめた。

「名前」
「え?」
「名前よんでくれて、嬉しかった」

そう言うと、ミチルはルークの腕の中で微笑んだまま眠ってしまった。

「なんだよ、それ」

ルークは、芝の上にミチルをそっと寝かせると、目の端に溜まった涙をぬぐった。前髪を一度かき上げると、座りこんで空を見上げているマシューの前に立った。


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