【小説】二番目のシンデレラ -44-
マシューは、ルークの正面に立った。
マシューの後ろに、ふたりの少年がならぶ。ひとりは、顎の細いそばかすの少年。ミチルと目が合うと、にへっと笑った。
もうひとりは眼鏡をかけた色白の少年で、興味がないようにそっぽを向いている。
マシューは、にやにやしながら顎をしゃくった。
「こいつ、実技の授業で、練習ボールを好きなものに変えろって言われて、箒に変えたんだぜ。なあ、ジェス」
「ああ。ルークは箒が大好きなんだよな」
ジェスとよばれたそばかすの少年が、ルークを下から覗きこむようにして言った。
「リアンもなんか言ってやれよ」
色白の少年は、なにも言わずに眼鏡を押し上げた。変わりにマシューが続けた。
「それとも、箒より一緒にいる、その女のほうが好きなのか?」
マシューは口元を上げて、ミチルを見た。
「行こう」
ルークは俯いたまま、マシューとジェスの間を割って歩きはじめた。ミチルは、ルークの後ろについて歩いた。
「ちっ」
過ぎ去り際に、マシューの舌打ちが聞こえた。
三人は、教室の前からミチルたちを見ていた。ミチルがルークを見ると、ルークはずっと先を歩いていた。驚いて、小走りでルークを追いかけた。
ルークは廊下を見ながら、ただひたすら歩いている。
「ルーク?」
「オレ、次、実技だから。どっか、先生のとこにでも行ってくれ」
そう言うと、ミチルの返事も待たずに、廊下を曲がって行ってしまった。
「……わかった」
誰もいなくなった廊下に、ミチルは返事をした。
昨日は、勝手に見てまわると言ったものの、いざひとりになると、どうしたらいいのかわからない。ひとまず、前にのびている廊下を歩くことにした。
教室の前を通ると、女の子の声がもれ聞こえた。
「山向こうの町で、出たんだって」
「出たって?」
「大鷲。緋眼の大鷲だよ」
「ほんとに? 噂じゃなかったの」
「昨日、父さんが行ってたの。それで、見たって」
「ほんとにいるんだ」
「ちょっと、見てみたくない?」
「嫌だよ。連れていかれたらどうするの」
ここには、そんな鳥がいるんだ。大鷲って、どれくらいの大きさなんだろう。飛行機くらい大きいのかも。って、飛行機の大きさを知らないな。アタシ、飛行機にも乗ったことないんだ――。
ミチルは、少し汚れた靴のつま先を見つめた。