【小説】二番目のシンデレラ -45-
「あら、どうしたの?」
廊下でぼんやり立っていると、後ろから声がした。ふり向くと、グレイシーが教科書を脇に抱えて立っていた。ミチルは、さっきの三人のこと、急にルークの様子が変わったことをグレイシーに話した。
「あぁ、またマシューね」
ミチルは、グレイシーと並んで歩いた。
「ルークはね、座学の成績はいいんだけど、実技の能力がまだまだなの」
「さっきマシューって子が言ってました。練習ボールを箒に変えたって」
グレイシーは、そうそうと頷いた。
「反対にマシューは、座学はぜんぜんなんだけど、実技はピカイチね。マシューも魔法使いの家系でね。土星の守護をもらっているの。きっとお互いに意識してるのね。マシューは、しょっちゅうルークにちょっかいをかけるのよ。ほんとに、困ったものだわ」
グレイシーから、大きな溜息がもれた。
「ところで、学校は案内してもらえたのかしら」
「はい、ひと通り。学年で制服の色が違うんですか?」
「そうね。学年といっても、能力でクラスが別れているの。能力の高い順に、Sクラス、Aクラス、Bクラス。それで制服が、紫、青、臙脂になってるのよ。ちなみに、教師は灰色で、校長先生が銀色ね」
グレイシーは、服のラインを見せるように軽く右腕を広げた。
「じゃあ、同じクラスでも、年の違う子もいるってことですよね」
「そうね。ルークと同じ年でも、Sクラスにいる子もいるわね。最初はみんなBクラスからはじまって、一年間の成績と最後の試験で昇級が決まるの。Sクラスの最終試験に合格したら卒業ね。残念ながら、なかなか昇級できずに、やめていく子もいるわね」
「厳しい世界なんですね」
「魔法使いになるっていうのは、そういうことなのよ」
グレイシーが言い終わるのと同時に、二限の開始を知らせる鐘が鳴った。グレイシーは、廊下の窓からグラウンドに目をやる。
「ミチルさん、せっかくだから、ルークの授業、見学してみたらどうかしら」
ミチルが窓の外を見ると、ルークのクラスがグラウンドに集まっていた。
ミチルは、グラウンド側の扉を出ると、授業の邪魔にならないように校舎の隅に腰をおろした。生徒たちは並んで、アーサーの指示を聞いている。アーサーは、ミチルをちらりとうかがうと、軽く微笑んだ。
何人かの生徒が、ちらちらとミチルに視線を走らせる。ルークは、アーサーの顔を真っ直ぐ見ている。マシューはミチルを見ると、にやりと口元を上げた。
「今日は、物体移動の訓練をします。ひとりひとつボールをとって、等間隔に開いてください」
アーサーの前には、ボールが入ったカゴがおかれていた。あれが、ルークが箒に変えた練習ボールなのだろう。サッカーボールほどの大きさの黄色いボールが、カゴに積まれていた。