【小説】二番目のシンデレラ -54-
ミチルは、いま見ているのは、夢だとわかっていた。同じ夢をもう何度も見た。続きもおぼえている。
――それから、母さんはこう言う。
『やりたいことを目指せるってのは、幸せなことだよ。それがどんなに辛い道でもね』
夢の中のミチルは、病室で母親の痩せた手を握っている。
『ワタシは、幸せだったんだ』
ミチルを見て、笑顔を浮かべる。
『あんたは、なにを目指すんだろうね』
点滴をつけた手が、ミチルの頭を撫でる。
『ごめんよ、ミチル。一緒に歩いてやれなくて』
目を開けると、万華鏡の天井だった。しばらく、天井を見ていた。
久しぶりに、また、あの夢を見た。誰が再生ボタンを押しているのだろう。繰り返される夢。けれど、それが夢ではないことも、ミチルは知っていた。
ミチルがゆっくりとまわりを見ると、ルークがテーブルを抱えるようにして眠っていた。カーテンが明るく光っている。朝だろうか。
思い出したように、ポケットに手を入れる。ルークの懐中時計。フタを開くと、六時五十七分だった。小さな歯車は、相変わらず、せっせと秒針をまわしていた。
ミチルは身体を起こして、ベッドに座った。白いはずのブラウスが、驚くほど汚れている。それを見て、身体を掴んだかぎ爪を思い出した。
「アタシ、捕まってたんだ」
大鷲、旋風と砂ぼこり、緋色の瞳、尖ったかぎ爪。少しずつ記憶が引き出された。
かぎ爪をたたいてみたけれど、石のように硬かった。爪切りでは切れそうもない。硬いかぎ爪は、容赦なくわき腹に食いこんでいた。
大鷲が翼を羽ばたかせるたびに、視界が大きく上下した。居心地はよくなかった。おかげで何度も気を失った。
ところどころ欠けた記憶をつなぎ合わせる。あれは、本当に起こったことなのだろうか。残っているのは、汚れたブラウスと鈍い身体の痛み。
ミチルは、ルークに目を向けた。
「そうだ、信じてたんだ」
ステッキを握りしめたルークの姿。必死で助けようとしてくれているルークを見て思った。そうか、ルークは、もう頑張ってるんだ。いつも全力で自分の目標に向かっている。
それが、上手くいかないもどかしさを一番感じているのは、ルーク自身。だったら、アタシにできることは、応援じゃなくて、信じること。
そのとき信じた気持ちが、胸に広がった。その気持ちは、汚れたブラウスよりも本物だと感じた。