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【小説】二番目のシンデレラ -86-

夏の容赦ない陽射しをさえぎるように、ミチルは目の上に手をかざした。

物置小屋の前には、引っ越し用のトラックが止まっていた。トラックの側面には『ゴールデン引越センター』と金色で書かれていた。文字のとなりには、マスコットのハムスターが段ボール箱を抱えた絵が、大きく描かれている。

「次、タンス行きますね」
「了解」

引っ越し業者のお兄さんたちが、声を張る。
ミチルは、庭先で手際よくはこばれていく荷物を見ていた。背中に視線を感じてふり向くと、リビングの大きな窓に、キクコとトシコがはりついていた。もごもごと口だけが動いている。なにか会話しているのだろう。

ミチルは、軽く手をふってみた。ふたりそろって目を丸くする。そのあと、はっとしたように姿勢を正すと、『別に気になどしていませんから』といった表情で、窓の前を行ったり来たりしていた。

シズエと将棋のおじさんの話し合いから二週間後に、ミチルの引っ越しの日が決まった。それから、さらに一週間がたった今日、引っ越しが着々と進んでいる。

玄関からおじさんが出てきて、ミチルのとなりまで歩いてきた。

「あの人の視線は、真夏も氷河期にしそうな力を持ってるよ」

ふうと大きく息をつく。シズエと話をしてきたのだろう。暑さからではない汗をぬぐっていた。

「おじさん、ありがとうございます」

ミチルは、となりのおじさんを見上げて言った。

「これはね、ボクのやりたいことでもあるんだ」
「え?」
「ボクは、ナギちゃんに、なにもしてあげられなかった」
「でも、それは、おじさんのせいじゃ――」
「後悔してたんだ。自分にもできることが、あったはずだって。だから、ボクは、ボクにできる方法で、ミチルちゃんを応援する。それが、ボクのやりたいこと」
「おじさん」
「これから、よろしくね」
「はい」

おじさんの笑顔に、ミチルも笑顔を返した。
物置小屋に、今夜すごすための布団と買い物用リュックだけを残して、引っ越し用のトラックは出発した。

「今晩は、こっちでいいんだね?」
「はい」
「じゃあ、明日、また迎えに来るから」
「お願いします」

おじさんは、庭の隅にとめてあった車に乗ると、運転席の窓から軽く片手を上げた。ミチルは、車が見えなくなるまで、庭先で見送った。

どこからか蝉の声が聞こえていた。もう夏が来たんだ。そう思いながら、物置小屋の扉を開いた。



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大塚裕人:ゆう
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