見出し画像

【小説】二番目のシンデレラ -60-

ミチルが目を開けると、そこは物置小屋だった。

見慣れた天井。ぼろぼろの家具たち。数日しかたっていないのに、随分と長い間、この部屋を離れていたように感じた。

「ただいま」

ふり返ってルークを見ると、そこにルークはいなかった。

「ルーク?」
「ここだよ」

ルークは、ソファに座っていた。ハムスターの姿で。そうだった。グレイシーの魔法はまだ有効なのだ、とミチルは思い出す。

「ルーク、ちょっと待ってて。アタシ、謝ってくるから」
「オレも行こうか?」
「大丈夫。また、ネズミ! とかってなるといけないし」
「わかった」

ミチルは、物置小屋の扉を開くと、家に向かって走った。リビングでは、キクコとトシコがくつろいでいた。ミチルは、勢いよく頭を下げた。

「何日も家を空けて、申し訳ありませんでした!」

静かなリビングに、ミチルの声が響く。薄っすらとテレビの音が聞こえる。

「なにを、すっとんきょうなことを言っているのかしら」

ソファに座って雑誌を広げているキクコが、小首を傾げた。

「もともと、すっとんきょうじゃありませんか」

かじりかけの大きな煎餅をもったトシコが、冷ややかな目を向けた。

「あなた、買い物に行くんじゃなかったんですか」
「さっさと行って、ちゃっちゃとお昼にしてちょうだい」

なんだか、上手く噛み合わない。ミチルは、ぐるりと目を一周させると、おそるおそるいてみた。

「あの、今日は、何月何日ですか?」
「ほら、すっとんきょうじゃありませんか」

ミチルが帰ってきたのは、あの日、ルークの世界に行く前の日だった。空間を飛びこえて、時間をさかのぼっていた。

「グレイシー先生も、そう言ってくれればいいのにねぇ」

空のリュックを背負ったミチルが口をとがらせた。

「おかげで、すっとんきょう扱いだよ」

『あら、いけない』そう言って、ほほほと笑うグレイシーの顔が目に浮かんだ。

ミチルは、あの日と同じメモを見ながら、同じ道順で店をまわり、同じものを購入した。最後に、スーパーでチョコを買って、ルークにわたす。

「今度は、見つからないように帰ろうね」
「うん」

チョコを抱えたルークが、大きくうなずいた。


いただいたサポートを力に変えて、さらに精進していきます! サポートは、活動費として、大切に活用いたします!