【小説】二番目のシンデレラ -89- 最終話
第三会議室では、ふたりが待っていた。ひとりは年配の女性。椅子にゆったりと腰をおろし、テーブルの上のモニターを眺めている。もうひとりは、若い男性。女性の後ろに立ち、同じようにモニターを見つめている。
第三会議室には、十二名が座れるようテーブルがコの字型にならべられている。それぞれの席に、小型のモニターが備えつけられていた。
「これから、かしらね」
窓際に腰かけた女性が、モニターを見ながら呟いた。
「そうですね。これから、ですね」
男性は、女性に同じ言葉を返した。
静かにモニターを見つめる。モニターからは、わずかに音声がもれている。会議室の正面に掛けられた時計の音が、モニターの音をかき消す。
女性は、時計に目をやった。
「そろそろかしら」
時計の針は、夜の十二時をさそうとしていた。
「そろそろですね」
男性は、ポケットから銀色の懐中時計をとり出してフタを開いた。男性が文字盤を目にしたちょうどそのとき、懐中時計の秒針が長針と重なった。
「望む気持ちは、魔法と同じね」
椅子に座ったグレイシーが、アーサーに視線を投げた。
「校長先生は、はじめから、わかっていたんでしょうか?」
グレイシーの背後から、モニターを見ていたアーサーが呟いた。
「そうかもしれないわね。最後にミチルさんを選んだのは、校長先生ですからね」
ふたりの後ろの大きな窓には、月がかかっていた。銀色の大きな三日月が、夜の闇を明るく照らしていた。
「あとは、あの子に任せましょ」
「でも、グレイシー先生が魔法を使う機会がありませんでしたね」
「そうね。でも、私はね、ミチルさんのために、ひとつだけ、魔法を使ったのよ」
「え、なんですか?」
「私が使った魔法はね、ルークをおいてきたことですよ」
グレイシーは、片目を閉じて微笑んだ。
アーサーは、柔らかい笑みを浮かべた。
「それでは、ルークがもどってくるのを待ちましょうか」
「そうね」
ふたりが見ていたモニターには、真っ直ぐに前を見つめた、ミチルの姿が映し出されていた。
おしまい🍀
読んでくれて、ありがとう ~裕:ゆう