【小説】二番目のシンデレラ -55-
ありったけの力を使って、助けてくれたのだろう。それで、いま、ああしてテーブルを抱えこんで眠っている。
「ん?」
自分のベッドではなく、ここのテーブルで眠っている。あんなに力を使って、きっとくたくただったに違いない。ベッドに倒れこんでいてもおかしくはない。なのに、ここにいる。
そばに、いてくれたんだ――。
ルークの右腕が、テーブルから滑り落ちた。テーブルに突っ伏したまま、ミチルのほうに顔だけ向ける。
「起きたのか?」
重そうな瞼を何度か瞬かせた。ゆっくりと身体を起こすと、目を見開いた。
「どうしたんだよ!」
ルークが、椅子から身を乗り出す。
ベッドに座ったミチルの両目からは、ぼろぼろと大粒の涙がこぼれていた。
「どっか、痛むのか?」
「ちがう」
「怖かったからか?」
「ちがう」
「なんだよ。なんで、泣いてるんだよ」
ルークは、両手を胸の前でふわふわさせている。
ミチルは、口をへの字に曲げた。
鼻で息を吸いこむと、ベッドから飛び出した。
ルークをぎゅっと抱きしめる。
ルークは両手をピンと上げたまま、固まっていた。
ミチルが鼻をすすると、ルークからは汗と土の匂いがした。
「ありがと」
「なんだよ、びっくりするだろ」
ルークの身体から、力が抜けていくのを感じた。
「ミチル、ごめん」
「ん?」
「オレ、ミチルにひどいこと言って」
「アタシこそ、ごめん。ルークは、もう頑張ってるのに、頑張れだなんて」
「でも、言いすぎた」
「いいの、その通りだって思った。アタシ、頑張ってるフリしてたのかなって」
ミチルは、ブラウスの袖で涙を拭った。
「叶えたいこと、見つけなきゃね」
自分に言い聞かせるようにそう言うと、笑顔をつくった。
「ルーク、部屋にもどって、ちゃんと休んで」
「うん、わかった」
ルークは、いまにも閉じそうな目で、ゆらゆらと部屋にもどっていった。大丈夫かな。ちゃんと部屋までたどりつけるかな。ルークが寄宿舎の入り口を出るまで、扉の前で見ていた。
心配だったので、ルークが入り口を出ると、部屋に戻ってカーテンを開けた。
変わらずゆらゆらしているが、なんとか目的の方向に向かって歩いている。正面にある寄宿舎の角を曲がって姿が見えなくなるまで、ミチルは窓から見ていた。
ゆっくり休めますように。そう願いながら、カーテンを閉めた。