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【小説】二番目のシンデレラ -41-

不思議な感覚だった。

いろんなはじめてが次々と起こって、ゆっくり考えもしなかったけれど、ここは自分が住んでいる世界とは違う世界。自分の足では、自分の部屋にももどれない。知っている場所も、知っている人もいない。

海外を旅行したら、こんな感じなのだろうか。海外になんて、行ったことはなかったが、海外どころか、別の世界に来てしまった。

一緒に空から落ちたリュックに目をやる。唯一の同行者。ミチルは、リュックから荷物をとり出した。洋服はクローゼットに入れ、小物はサイドテーブルの引出しの中にしまった。

最後にリュックから出てきたのは、お気に入りの小説だった。ミチルは、小説を軽く握った。

「新しい物語のはじまりだ」



目が覚めると、見おぼえのない天井があった。

天井の模様が、徐々にはっきりと見えてくる。万華鏡を覗いたような模様。同じ模様が正方形の中に入って、天井に敷きつめられている。

「そうか」

ミチルは、ここで横になるまでの出来事を、ゆっくりと思い出した。

カーテン越しの窓が、うっすらと明るい。朝なのだろう。けれど、時間がわからない。腕時計を買っておけばよかった、といまになって後悔した。

クローゼット開けて、新しい服とタオルをとり出す。着替えて部屋を出ると、廊下の先が白く光っていた。入り口からの光が廊下に反射している。早朝なのだろうか。光が射しているだけで、なんの音も聞こえない。自分の足音が、やけに大きく聞こえた。

共有スペースの洗面台で顔を洗った。冷たい水が、すっきりと目覚めさせてくれた。顔を拭いて、ふと見ると、同じ蛇口が三つならんでいる。

蛇口は、静かに銀色に光っているだけ。もちろん、なにも言わない。けれど、次は自分の番だ、ととなりの蛇口が期待に胸を膨らませている。そんな気がした。あと三回、顔を洗ったほうがいいのだろうか。謎の使命感に駆られる。

今日のところは一回だけにして、蛇口に軽く頭を下げて、部屋にもどった。もどるときにも、誰にも会わなかった。ここには自分しかいないのではないだろうか。圧縮された静けさの中を、足音とともに歩く。

部屋に入ってベッドに腰をかけた。いつもなら、朝食の準備、ゴミ出し、洗濯に掃除とやることが列をなしていた。けれど、なにをしていいのかわからない。しばらく、正面の壁を見つめる。

大変だ。意味がない。壁の鑑定士になりたいわけではない。そもそもそんな職業があるのかどうかはわからないが、とにかくこのまま壁を見ていてもしかたがない。

目を閉じて考える。
アタシのやりたいことは?
白い壁の残像だけが、まぶたに映った。


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大塚裕人:ゆう
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