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[掌編小説]「K」の空間#原稿用紙二枚分の感覚

建物の前には「K」の形のプロダクト。ギィ、と鳴るのは重い扉。漂うのは白ワインのコロンの香り。そんなお部屋にお邪魔します。扉、ガタン。

香りの先には笑みを浮かべた白髪老婆。受付カウンターの天板はテカテカで。そこに両手を添えて待っていた。

呪文が聞こえた。フランス語。

手を突っ込む。ひんやりとしたコロナコイン。ポケットの中ジャラジャラしてる。3枚掬って老婆の手元に。脇から垂れる酸っぱい汗。

老婆の顔、みるみるシワ増え奇妙な笑みに変化した。置いたコインをサッと払い、人差し指でルートの入口指し示す。

空間に反響する足音。コツッ、コツッ、コツッ。
だけど、次第に遅くなる足。とんっ、とんっ、とんっ。

徐々に光がなくなって、空間ますます冷えていく。べとつく汗も引いていく。バックパックから長袖シャツを取り出して。さっと羽織って小慣れた手つきでボタンを留めるとあったかい。

歯車と歯車の噛み合い食い違う。ガンッ、ガンッ、ガンッ。不協和音が鳴り響く。凹凸の光沢ない黒い壁に囲まれて。この空間は真っ暗だ。
「これが、彼の、空間なのか。」

ザッ、壁に擦る。黒くなっていない右肩。
ガッ、スロープに足を取られるスニーカー。
両壁の巾木の高さに流れるブルーのネオン。
「これを辿れば。」

ショーケースの中、本、手記、日記。年月経って黄ばんでる。じっと眺める。光を照らし続けるダウンライト。僕を次々追い越す背後の足音。

空間仕切るキラリと光る銀の枠。光が乱反射する白い部屋。光が届いて目の奥チクり。

スクリーンに映像が。おびただしい数の黒い玉。右から左へ、上から下へ、斜め左から斜め右へ。ランダム方向に高速移動。人々の叫び声。不協和音がまたしても。

白ワインのコロンの香り。
元に戻って老婆が見えた。
ニコッと笑い、手を振った。

生ぬるい風で汗がにじむ。
「K」の脇でシャツを脱ぎ、バックパックにギュッと詰める。

プラハ「フランツ・カフカミュージアム」さようなら。

***
終わり 800字

今回、恐縮ながら参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。 優雨

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優雨
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