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おにぎりが食べたい【生きるぼくら】

原田マハさんの、ものがたりが好きです。

噛み合っていない歯車が、
ものがたりが進むにつれて噛み合っていく感じ。

今回のものがたりも、そう。

両親が別々の道を歩むことになり、母親は働きづめ。
自分は、というと、
学校に行けばいじめられ、
次第に登校できずに引きこもり、
大好きだった“梅”も食べられなくなり、
母親も愛想をつかし、出ていってしまう。

そんな中、一枚の年賀状をきっかけに、
止まってしまっていた歯車が動き出す。


素直な言葉がこぼれ出た。帰ってきた人生の姿を見て、ばあちゃんは、何も言わず、黙ってうなずいた。何度も、何度も。目にいっぱいの涙を浮かべて。

「生きるぼくら」(著:原田マハ)

何も言わずに、すべてを受け止めてくれる、そんな存在ってありがたいですよね。
何か言葉が欲しいわけじゃない、レールを敷いて欲しいわけでもない。
そんなときに、ただただ存在を認めてくれる。
それだけで救われることもある。

元気なときには気づかないけれど、支えるほうも、支えられるほうも、病気になればお互いのありがたさが身に染みる。そして、失ってみると、その存在の大きさがしみじみとわかるものなのだと。

「生きるぼくら」(著:原田マハ)

でも、そんな存在は、“何か起こらないと”ありがたみに気が付かないことでもある。
風邪を引いた、怪我をした、辛い・苦しいことがあった。
“普通”のときには当たり前なのに、何か起こったときには、心強い存在になる。
なる、というより、やっぱり“気がつく”。

気がついたときに、もう一歩踏み出そうと思える。
もうひと頑張りしてもよって気持ちになれる。
そんな背中をそっとさすってくれるような存在。

誰にでもきっといてくれるはず。

ものがたりが進むにつれて、『よかったなぁ』と安心感を覚えるような描写の数々。

大切な人たちと美味しいおにぎりが食べたくなる、そんなものがたりでした。

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