本丸
本丸は、さみしい
昔あったお城はなくなった
盛岡城は赤色だった
南部伯爵の銅像も居なくなった
戦争に使うから、とどこかへ行ってしまった
台座だけ残った
街を見下ろす東屋も消えた
遺跡調査のためらしい
凌虚亭という三角あたまだった
けれど人は来る
ここは盛岡城のてっぺんがあったところ
石を削ったベンチに座り呼吸する
また立ち上がり降りていく
彼らはどこへ行くんだろう
そして人はくちにする
「城北、城南、城東、城西」
盛岡のひとたちは
今はもうないお城を
心のどこかに持っている
本丸を降りたひとたちは
きっとどこかしらに行くんだろう
お城を中心にした地図を
知らずのうちに手にして
ここはお城があった場所
みんなの心の中にもある場所
その名前を呼ばれる度
このお城と公園はぺっこばかり喜んで
まばらに立つ枝葉を揺らす
きっと本丸は、
少しだけさみしさを吹き飛ばせる
於:盛岡城跡公園 本丸 凌虚亭